す。あに、精励ならざるを得んや、というのは真実であるとお察し下さい。
 お手紙がうれしかったせいもあって、きょうは二階へ水を運び上げ火の用心をし、さてそれからチャンスと思って風呂をたきつけました。いい工合によく燃えついていい気分で、台所の裏で石炭集めしていたら、どこかでザアザア水が流れる音がきこえ出しました。又どっかで水道パイプが破裂したのかと思って燃《た》き口へ来て見たら、どうでしょう、いい焔を上げていたカマの口から、地獄の洪水みたいに黒い水がザアザア流れ出して居ります。循環パイプのカマなのよ。上り湯のパイプがわるくなっているのを思い出しすぐ上り湯をあけました。それが原因だと思っていたら、さっき、みかんの皮(ミカンの少々の皮、ふろに入れると手のアレ直し)を出しに浴槽をあけたら、湯槽の方の太いパイプがそこ抜けになってしまってすっかり減っているの。ああやれやれと歎息してしまいました。これで哀れなブランカは何日かヒビだらけの手でお湯に入れなくなりました。今こんなパイプの直しなんかおいそれと引受けるところはありませんし、どうなることでしょう。もしかすると、これで当分フロおじゃんということかもしれません。そしたら目白の家でつかっていた丸形のをお医者様のところから引上げてでも来るしかないでしょう。一休みして、二階へ干したふとん始末に上ったら又ここでも水騒動。太郎が生れたときこしらえた大ダライに水を満々と張ったはいいが、いつも風呂場のタタキにあってわからなかったスキがあって畳がすっかり水を吸っているというさわぎです。バケツでかい出して屋根からすててね。漸々《ようよう》其でコメディア・フィニタ。ブランカも多忙でしょう? この頃は何でも老朽で、其を直せませんから、こうやって用が二重になったりいたします。
 老朽と云えば毛糸足袋下。はいてみたら、何と云ってもこっちが暖いわ。いくら私がこしらえたって薄いものは薄いのですもの、あなたがおやせになったせいばかりとは申せません。今年はじめて別のをおはきになったのですものね、鷺の宮であなたの足袋を縫ってくれるというので、ネルや帯芯をもってゆき、もう出来ましたって。近々足元がいくらかましにおなりでしょう。鷺の宮やてっちゃんは、歳月で褪せない暖いこころがあって、うれしゅうございます。
「風に散りぬ」の話というのはね、この間偶然、あちらに永年いた婦人
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