足のままでしたから九時頃大いそぎで湯たんぷをかかえて二階へ上りました。寿江子はいやがらせに「いいの、床へ入るとどうせすぐよ」と申します、「いいとも。五分だっていいよ」と床へ入って、さて一眠りして気がつくと鳴らないじゃないの。まあ、と枕の下から時計出してみたら十二時。じゃあ三時頃かな、と又いいこころもちに眠って、又目がさめたら、まだ鳴らない。おはなしのようでしょう? 時計を出したら五時すぎなのよ。さてさてきょうはめっけものだ、これなら朝も大丈夫と、又もや一つね返りを打って、一息に九時半まで眠りました。凄いわねえ。ずっと眠る心持よさ。いつもこうして眠っていたのね、そちらもおらくでしたろう? よかったわねえ。そんな風に臥ましたからきょうは元気だし、天気もよかったし、寿江子が台所に働いている間、ポストへ行きました。そして二十九日のに、やっとめぐり合ったという次第です。
いかにもいいおせいぼだったのにおくれておしかったこと。其でも結構なお年玉であることに変りはございません。
本当に去年はなかなかの年でした。精一杯にやってその日その日を送ったので、回想というところまで時間のへだたりがまだ生じて居りませんが、わたしたちの生活の中で、色調つよき年であったことは疑いありません、四月以降相当でした。でも、おかげさまで病気に戻りもしなかったからようございました、それというのもブランカとしてはここでどうしても暮す、という不動の目的があるからやれたので、さもなければ一寸辛棒しませんでしたろう。腹を立てたりしてね。特にわたしとして内部の収穫多き一年でした。船酔いでもありそうな日は、とあり、あんまり適切なので笑えました。あなたお酔いになる? わたしは、船と飛行機は駄目です、普通の酔いかたで、みっともないが単純なのではないのよ、到って行儀よくて何一つ胃から逆流させませんが、血液循環がどうにかなって、脳の貧血、全体の貧血が起り、眼をあけたまま夢中になってしまって、飛行機なんか下りて半日は病人です。それが一定の時間を超すと、そのまま死ぬのですって。閉口ねえ。ですから、船酔いのありそうなとき、良質の空気が助けとなるということの適切さは、それこそ命の素というわけです。あなたも、余り気持よくなさそうに船酔いでも、と書いていらして面白いこと。泳ぎの上手い人は酔わないのじゃないの? やっぱり酔うの? 尤も船
前へ
次へ
全126ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング