したことがありました。そしたらすぐそちらに廻り、一ヵ月余音沙汰なしで、話は又同じ題目で、どうしても私は一定の主義に立って物をかいていると云われ、そういうわけでないという常識論は通じませんでした。そのうちかかりの検事が見えましたから、私は自分に要求されている返答がどうもしっくりしないで困ること、しかしそれをそうでないということが即ちとがむべきことというのでは当惑すること、書いたものの実際についてよめばひろい観点でかいていることがわかる筈と話しました。検事はおだやかな判断で、私が書いたというために色眼鏡で見ているところもあり、私という人間を特別な先入観で名から見ているところもあり、気の毒だと思うところもあるが、作品はところどころ難点がある、という話でした。しかしグループをもって活動しているわけでも組織をもってそれに属しているのでもない人間が治維法にふれることはないという話でした。
 それから暫くして聴取書がこしらえられはじめ、手記にかいたような経歴などのところで私がひっくりかえってしまったのでした。手記にかくこともないから手記もありませんでした。聴きとりが終れば病気にならなくてもそれで帰れ
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