りしたのが幾分こたえたのでしょう。何しろあんまり馴れていないことですから。それこれも順調にはかどったから安心で、もうのんきになれます。自分だけのことで、あせったりはしないのよ、何を早くどうしようなどという点では御心配無用です。
 きょうは、一寸代筆では困ることだけ、こんならんぼうな手さぐり字で申上げます。
 あちらへ行くことは御親切もわかり、いいこともわかりますが、私としては空からの不安のなくなった(大体)季節でないと困ります。そのわけは、徳山、光は全く特殊な性質の都市ですから、そういうことになれば直ちに戒厳状態に入ります。今でさえも半分はそうで、親の御機嫌伺いにゆくのにもう次の日はオートバイで室積からわざわざ来てスケジュールをきいて何日にどこへ行くかという次第です。達ちゃんの御祝儀で何とかいう町の料亭へ行ったときは、制服のひとが敬意を表するために来てくれて、別室へあがって面会をしなければなりませんでした。何時にどのバスでどこへ誰と行ったということ迄一々で大した名士なのよ。だから私はいつも全くうんざりです。土地の風で女が昼間散歩するということはないからとお母さんも気をおつかいになるから
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