』をよんで居ります。

 七月十七日 (消印)〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(セザンヌ筆「パイプを咥えた男」の絵はがき)〕

 七月十七日、この髭の垂れ工合が三十代のゴーリキイのルバシカを着た写真を思い出させます。セザンヌはいつも片方の眉をこう描くのですね、自分のも、ひとのも。これは気持よい肖像でいくらか秘蔵の心持のあるものです。私の用事は、あと四五回でまとまる由です。マアマアというところです。まる四ヵ月かかったことになります。それきりですむのならさっぱりいたします。国男は月曜に退院して来ましたがやはり営養が不足のせいかまだ床に居て本をよんで暮して居ります。

 七月十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 七月十七日
 こんどは珍しい御無沙汰になりました。いろいろの話がどっさりたまりました。御無沙汰のわけは、国男がかえって臥ていてゴタゴタ。暑くてへばる(二階が)お盆の買物に出たりしたことなど。
 今日はすこし涼しいことね。雨が降りかかってすこし落付いていいと思ったら、やんで曇って、却ってむすかと心配です。
 十日のお手紙をありがとう。『茂吉ノオト』と『人間の歴史』
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