めました。そしたら咲が、あっこおばちゃんは何にも御存じなかったんだから、と息子に云いわけをしている。太郎は一層ビービー泣いて、あっこおばちゃんは怒りんぼだからいやだ、怒るからいやだ、とわめいている。母さん一言もなしなのよ。二階で私はきいていて、本当に怒りを感じました。そこで瀧の落ちるような勢でおりて行って、安楽椅子にはまりこんでいる太郎の泣いている腕をつかまえて云ったの。自分に都合のいいときだけ甘たれて、何でもして貰ってすこし気に入らないことを云われると、かげで怒りん坊だのというのは卑怯だ。全く男の子らしいことでない。一番ケチな人間しかしないことだ、と云ったら、ごまかしてきくまいとして、猶泣き乍ら、だって何とか彼とかわめくので、私は思わず太郎の脚をぴっしゃりと打ちました。そして、すきなだけ泣いてよく考えなさいと云って上って来てしまった。太郎は敏感な子で、その場に自分を合理化してくれるものがあると思うと、本能的にそこへ身をよせてきっちりしたところのない心持の子です。母さんは、私が息子を打ったということだけで上気《のぼ》せてプリプリしていたわ。うちの人たちは、気まぐれには太郎を叱り土蔵に入
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