山からほり出して来たのよ。形はどうともあれ、今にしては大した良質のものだからホクホクです、書きよいのよ、そして私は手紙につかえるいい紙が見つかると一番上機嫌です。
 風邪のかげんできょうの目といったらメチャよ。大チラつき。ペンさんがやっと結婚するようになりました。秋頃の由。対手は実業家の息子で帝大の経済出。日銀に居た人。ペンさんは高等小学を出てすぐそこで女事務員になり七年つとめている間にその人を知ったのです。中途でゴタついて、男のひともグラついたのらしいが、マア決着したわけです。高輪に壮大なる邸宅があってそれは借金のカタになっているが、妹が結婚する迄はその家をもって行くという処世術を守る家風です。なかなか楽ではないでしょうが、何年来も交渉があったらしいから、ちゃんと結婚というきまりをもって、生活のよさわるさを正面に経験して見るのはよいでしょう。
 私はこの頃迎えや外出のおともをして貰っていますが、秋迄にはその用も一片つきましょうからお互にようございました。きょうはいくらでもこうやって御飯後のお喋りのような話をしていたいがあんまりな目ですからもうオヤメ。かぜをおひきにならないようにね。

 五月二十三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 五月二十三日
 十九日づけのお手紙土曜(昨日)頂きました。お心くばりいろいろとありがとう。本当に、来ないようとおっしゃったらヒョコリといやに熱心な顔を差出したから苦笑ものでいらしたでしょう。
 私は目下大したものもちで、十五日からつづけて三つものお手紙をためこんで眺めて、あっちこっちくりかえしてよんでいる次第です。
 まず十五日の分からね。マホー瓶の件。もちかえりましたが大したこわれかたね、グザグザね、国男に話したら、キット大きな音がしたんだろうと云っていました。そう?
 マホー瓶は真空装置がある瓶を入れるのだからビールビンではどうかということです。心当りのところに(専門店)きいてみます。うちにあるのは、よくアイスクリームを一寸買ってかえったりするときの、籐のザルに入って、いきなりキルクせんの、テラテラツルツルしたものなのよ。籐のザルをぬいたら立ってもいられない代物なのよ、それでもいいでしょうか、よかったらお届けいたします、御返事を、どうぞ。
『結核殊に肺結核』『文芸』と一緒に送りました。掛ぶとんカバーなしで、夏ぶとん
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