けられるかもしれません。きょうは疲れてマクマクのレロレロよ。家中にいるのは寿江子と私と台所の一人と書生。国男、太郎はみんなかあさん[#「かあさん」に傍点]のところへ。実に久しぶりのしずけさで若葉の色をしんから眺めるような気持です。たのしみなことも出来たし、きょうはいい心持で、どうぞおよろこび下さい。一ヵ月に一度でも私がゆければ寿江子は上りません。あのひとはこの頃体の工合がわるく、やせて閉口して居ります。糖は営養がすこしあやしくなると因果と糖が出るようになり、それで益※[#二の字点、1−2−22]営養は不良となるという堂々めぐりです。来週あたり国府津へゆくでしょう。
ああちゃんと子供は月曜の雨の中を出てゆきました。よほど重荷が整理された感じです。咲枝がサービス疲れのようなのもあちらならなんと云ってもやすまりましょうから。国もドメスティックな人なので細君がいないと何となく悄気《しょげ》ていて気の毒よ。自分の考えたことで安心はしながらも。この間二度つづけて永い力作をさしあげたら、何だか当分ぎっしりとつまった手紙かく根気がぬけて居ります。でも、あの手紙をかいたおかげで今私の気分はいろいろさっぱりと落付き、一層深い信頼に充たされていていい状態でうれしゅうございます、本当にありがとう。では、大抵来週の金曜頃に。こんなに力をぬいてサラリと書いてさえこんなにしみる紙にGは迚も使えず。ほり込むように一字一字を書いてゆく愉快さもないというわけです。一工夫しなければなりますまい。
五月五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
きのうきょうの風のつよいことどうでしょう。けさまだすがすがしい朝の庭に、赤いつつじが咲いて楓の葉が青々とした下へ、三羽のつぐみが遊びに来ているのを見て大変奇麗だと思いました。少年時代に小鳥とりなどなさらなかって? 裏日本の方ではみんなやるようですね、つぐみはやや大きい黒っぽい鳥で、その色は単調に赤いつつじの色とよく似合って、ああこんな景色もあるかと感じました。
三十日のお手紙日曜日に頂きました。早速返事書きたかったけれども先週は疲れ月曜の疲労を予算に入れてのばしていたら、その日が一日ずって昨日となり、又明日があり結局きょうとなってやっぱりいくらかへばりの日にかくことになりました。
もう私の心持では、大きい字を巻紙につらねたような手紙ではたんの
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