した。香がきつすぎないこと?

 三月十八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 絵はがき)〕

 今日はあんまりよくないお知らせです。
 山崎の小父様が十四日急逝なされました。多賀子から知らせてきました。島田のお母さんが珍らしく京都見物と奈良見物を思いたたれ多賀子を連れ、大阪の岡本のうち(かつ子のところ)へついたら電報がきて、十五日に早々母上だけお戻りになったそうです。二年程前、お目にかかったのが終りになりました。あなたからのお悔みの言葉として、手紙とお供早速送りました。母上へは別に手紙差しあげます。さぞさぞお力落しでしょう。あの小父様は私達の心持に暖かい面影を持ったかたでした。そして、淋しそうな方でした。

 三月二十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 絵はがき)〕

 御注文の本寺田と茂吉は岩波新書ですが、何しろこの頃の本のなさといったら猛烈だからおそらくは入手難でしょう。世田谷のお友達が寺田の方はお持ちかも知れません、『自動車部隊』は佐藤観次郎という人のでしょう? 今また行っています。どの人の手紙も断りなく出したからあんまりジャーナリスティックなやり方で誰しも大して好感を持てませんでした。いろんな人があるものね、はじめ手紙よこしたから戦地に居る人と思い、志賀さんなんかも返事したのね。
 肝臓はすっかりおさまって居ります。
 風邪をどうぞこれからもおひきにならない様に。

 三月二十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 絵はがき)〕

 六日付のお手紙、今日(二十二日)いただきました。珍らしく手間どりました。私が先週の日曜頃出した書留の手紙はごらんいただいたでしょうか。本のこととりはからいます。隆治さんの方へはまだ小包を受付けないので語学の本だけ巻いて送りました。それさえ書留は受けませんでした。袷着物、羽織、合シャツ上下、お送りします。『〓世界地図』やっと買えました。『世界大戦とその戦略』古本でみつけていれました。『農民離村の実証的研究』と三冊お送りします。いずれ別便で。

 三月二十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕

 ゆっくりほかのこととまぜて申しあげようと思っていたけれど、ペンさんが来てくれているので一筆。
 空からの御光来については、どこでもまるで合理的な準備は出来ず、それは個人達の怠慢というよりも、
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