いうことと、ケロリとは別のものなのですから、猶々改善いたします。でも、もうハンマーは十分よ。響きがきついから、体がその響きでグサッとなってしまうようです。聖書にあるでしょう、エリコの城は長ラッパを吹き立てて落城させたのよ、城壁が崩れたのだそうです。あなたの力づよいハンマーのうちおろしでユリコの城がくずれないということがあるでしょうか。白旗をかかげます。すこしの間、耳を聾する天来の声を、凡庸な十二月の風の音に代えて下さい。そして、あなたとさし向いにして下さい。あなたの顔を、よくよく眼のなかにはめこませて下さい。そこには私の疲れをやすめ安心を与え、同時に気を確かにさせ、すべてのよい願を恒に清新にするものがあります。
追伸
レントゲンのこと、これも終ったかは恐れ入ります。
今年の冬はどこもスティームなしですから予防会へ行って、今どうもないのに、寒いところで体を出す勇気がありません。冬の間は御容赦願います。それがテキメンと叱られるのは分っているけれども。自分がズボラしたのだからお義理にも今年の冬重い風邪はひけませんからね。
十二月八日 (封筒なし)
十二月八日
四日づけのお手紙ありがとう。このお手紙には、いつかの手紙にかいた古い絵の中の男のひと、机の前にあぐらかいて坐っていて、外にはだしで立っている女のひとに、笑をふくんで、ものを云っている、そのひとの眼や口元にあった微笑が感じられます。いい気持になり、らくになり、その楽さは、日なたとともに、のんだ薬を工合よく体じゅうにしみわたらせ、苦みも、ほろ苦い暖かさとなります。どうもありがとう。いつも良薬に対しては謙遜ですが、こんどは、すこし作用がきつすぎて弱ったから大いに助かります。
葦平の感想というのは、同感されますね、その感想にあなたが同感をあらわしていらっしゃるということは、心にどっと流れこんで来るものがあります、本当に、いろいろいろいろ見せて上げたいわね。私が自分を、聖物崇拝者にならせまいと用心している工合を見せてあげたいわね、そして、何だ、ユリ、と云って笑いになるところを見たいと思います。散歩からかえったときのようないつもの机のまわりだったなんて、思えばくやしいわ。毛布にささってわたしのところに来る髪の毛を、どんな心持で一本一本ととって眺めるでしょう。葦平の妻が、いつその心を知っているでしょう。たった片
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