心したことでしょう。いつぞやの夏のような苦しさは、二度と願い下げです。本当に状態がわかって何とよかったでしょう、ありがとう。少し早目に(体の調子を云えば)手紙かいて下さっただけのねうちは充分ございます。もうこれでいいから、どうぞ大事に熱の下るよう風邪をお引添えにならないよう願います。
 私は十一日頃参りましょう(水曜日でしょうから)。その頃はもう熱もすこしは、おさまって居りましょう。
 しかしもし熱の工合で御考えでしたらことわって下すっても大丈夫です。只私はわけさえわかれば納得いたしますから。
 私の方はどうやら幸もって居ります。近視の度の進んでいることを発見したので近く検眼して眼鏡をかえます。もうウロプンクタールはないから、悪いレンズでは仕方あるまいと思いましたが、やはり戸外を歩く時なんかは度の合ったのでないと疲労が早くていけないそうです。ものをよみかきするには今のでもいいらしいのですけれど。
 きょうは大変暑うございますね。細かい字をつめてかくことが出来にくいのよ、御免なさい。フーフーだけれど心は計画にみちていて、活気をもって居ります。辛棒の仕甲斐ということのよろこびも、折にふれて切実です。又くりかえすと、そら御覧ブランカ、ですが、呉々も小説は戻してよかったことと思います。
 今年の夏は所謂丈夫な人によほどこたえる風です。私のようにまだ眼もちゃんとしないし、仕事も出来ず、万事を静養に集注している者は、却って助って居ります。いそがしさ、仕事、どれも倍で、体の力は不足故、えたいのわからない永続性の下痢をやったりして居ります。私は貧乏の量を多くして同時に休養の量も増すことにきめて居ります。小説のことよかったとこんなに云うのもつまり静養[#「静養」に傍点]の価値について一層明瞭になったからです。
 うちは百日咳のさわぎで、食堂など家庭野戦病院的光景です、吸入器と並んで食事します。咲枝も六月下旬からずっと入院、子供の百日咳とつづいて疲れて居りますが、今年の夏は私は子供係りは致しません、又、あと戻りしたらことですから。寿江子は信州辺に出かけるとソワソワです。田舎へ行けば旧習依然でも万事よくなると楽天的に考えて居るようです。私は夜なるたけあけて眠るよう気をつけて居ります。
 出かける用事が終ったら、疲れもへりますから、涼風とともにすこし計画を実現し一日に少しずつものもかきたい
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