りを。声を挙げ、なめらかさや、辷る曲線や風や水しぶきの芳しさを好ちゃんは満喫して体じゅうを燦めかせてくりかえし、くりかえしすべり下りました。私たちは何と其を喝采したことでしょう。我を忘れて、見とれたでしょう。すべって来てぱっと水の面をうち、好ちゃんの体が浮き上るようになるとき、戦慄が快く走ったことでした。夏のリズムは、夏のあつさにふさわしく旺盛で、開放的です。汗も燦きよろこびも燦めくという工合ね。私は仕合わせなことに今のところまだ夏負けしないで、去年の苦しさと全くちがう新鮮な元気で、(へばりつつも)夏のあつさを感じて居ります。まだまだレザーヴした毎日の暮しですから、一人前に暮したらすこぶる怪しいものですが。
今十五日づけのお手紙頂きました。十日のお手紙で字が大きくなっていたのに気づいたのですが、このお手紙で、最後の一くだりはやはり私を心配させます。熱が出るでしょうか、より悪くないために、でしょうか。それならばよいがと思います。私は近いうちにお目にかかりに行こうと思っていたのですが、今お動きにならない方がいいでしょうか。手紙を下さるから行ってもいいのだろうとも思えますが。下着類は、人絹シャツ三枚同ズボン下二枚、麻半ジュバン等お送りしました。人絹シャツ(薄茶)と人絹白ズボン下一枚とはセルと一緒に五月中に。あとは六月下旬の小包が栄さんのところにたのんであってすこしおくれたので、もう、そちらについていることと思います。
「動物記」のこと。ブランカの弱点は正確に云われて居ります。しかしブランカにしてもまさか猟師を見そこなって別のものだと思うほど、嘗て鉄砲の匂いをかいだこともないという牝狼でもないでしょう。ロボーを歯がゆがらす幾多の弱点はもちながらも。私が云っていたのは、ごく限られた範囲で、同じ虫でも毒のきつくない刺し方の虫の方がしのぎやすいというだけのことよ。いたちはいたちで猫でも虎でもない動きかたをするのは知っていると思います。わたしは、お喋りでなくしていて、落付いた気分で居ります。喋ることで流れの方向をどうしたいという気ももっていず、そうなると思わず、あくせく書いてたつきを立てようという※[#「火+焦」、第4水準2−80−3]った気分も無くていれば、無用の叩頭も不必要で、そのためにはこの間の小説の経験が大いに役立ってよかったと考えている次第です。あの経験から、心のきまっ
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