とはあります。これはいい本をお買いになったと私はホクホクもので大切にしまってしまったわ。かえすものでした由。あってよかったけれど、かえすのは辛いことね。ではそのようにいたします。かえすなら一度よんで、ね。
国男月曜日にかえりました。食事は大丈夫何でもいいのだけれど、やはり衰弱していると見てまだ床についたきりで、目ぺこです。大腸カタルの劇しいものだったらしいのね、赤痢ではなかったようです、家族の健康診断に市の衛生から来ませんでしたから。でも大体国はこの正月眼をわるくしてからブラブラで月に一杯出勤したことはないような風です。その点なかなか大した度胸よ。坊ちゃん度胸と人柄の度胸とダブッテいるように見えます。これで又ずっと秋まで休むのですって。そして、国府津へ行くとかアサカへ行くとか云って居ります。そのたんびに昔の軍隊のように大行李を運んで。こういう時代には落付かない心が、こんな形もとるのでしょうか。わたしは、せめて、本で専門の勉強でもする気になって、落付いてくれたらと思います。自分一人フワフワするのでなく、家族的[#「家族的」に傍点]なのはいいけれども、義務のためにいやなことも忍耐するという生活の緊った気風が家にないと、育って行くもののためにはわるいわ。いつもしたい[#「したい」に傍点]ことをだけして[#「して」に傍点]行くというのは。太郎がしたくないことをちっともしないと云って叱るが、それだけ叱ってもというところもあり。でも私はなかなかどっさりのことを学び、(生活法を)一しお自分は勤勉に躾けようと思います。こういう家族の中にいての方法ということも段々わかりました。既に河流をきめて流れて行く川について走ってその流れかたを云々したって仕方がないのですものね。批評も創造的批評でなくてはならないと沁々思います。そのためには喋っているより実行ですから。いつでも、どこでも、同じ、ね。
国男のかえる前週の金曜日に、出かけた翌日で疲れていたけれど女中さんをつれて出かけて、栗林さんへのものその他お義理の買物をして、富士見町へは 16.00 ほどの大きい、いい盆をとどけました。その時又手紙をかいて、御手数は万々承知ながらお願いしたのだと、改めて云ってやりました。私はいくらか忍耐を失っていて、契約の金全額支払ってかまわないから役にも立たないものを、と思うのよ。性急なかんしゃくめいては居り
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