まったのだろうって。それでも翌日は家じゅう大消毒。まだプンプンです。この間うち、マグロが珍しく入荷して、それでああいう病人が続出しました。珍しいから刺身と云うことになり、それでやられるのね。あのひとは事務所へ出ると昼はどうしてもそとだからそれでやられたのでしょう、あとは皆健在。しかし検査はあるでしょう、それも規定だから。お医者が几帳面な人だからキマリどおりにするのです。その方が子供たちのために安全ですけれど、困ることも困ります。少くとも二週間カンヅメですから。
全く疲れてかえったらその騒ぎで亢奮して又駒込まで私としての全速力でかけつけたりしたから、ひどくつかれてね、きょう、やっとこんな手紙もかけます。もう大丈夫近くなりました。きのうも一日床をしいてふらふらしていて、昨夜からけさにかけ十二時間ほど眠りましたから。疲れてねむくて眠れればいいのよ、もう。疲れすぎると不安定で一時間二時間おいてはちょくちょく目をさますから駄目ですが。病気前は、こんな細かい違いなんか無頓着だったのにね。
シートンの面白い部は、咲がよみたがって今入院です。すこしお待ち下さい。わが哀れなブランカは是非よんで頂きたいわ。チェホフはうちのロシャートカと細君をよんでいますが、馬さんはあんまり一般的すぎます。ブランカには悲しいところがあるが、実感がありますね。少くとも私は、ほら、ブランカと云われると、すりよりながら身をひきしめて自分の生れながらの不束《ふつつか》さをきまりわるく思いながら、やはり傍からどけない(くことは出来ない)というような思いになります。大変精神的であり又生々と動物的でもある思いです。
小説のことは本当にありがとう。私としては自分個人としての焦慮というよりも、対処の方法で縺れさせたのであったと思います。
その点が自分にとってもはっきりして、根本的にどうやって行くのが一番よいかと方針がわかると、あとの処理はすべて比較的簡単になり、落付いた気分にもなり、うれしいと思います。普通の勤め人とちがうというのは全くです。大事な人を一生自分にとって大切な人としとおすには、やはり意志がいるように、大切な自分の仕事を自分にとって一生大切なものとしとおすには、やはりかくれた勇気もいるものです。おっしゃるとおり波瀾万丈ですから、それを面白いとうける力は、その波をおこしている勢についての正しい理解以外に
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