なかありません。段々丈夫になってよく勉強すると、私はおなかのへるたちだから間に合わないと苦笑ものです。
 さて、これからすこし横になり、休み乍ら御接待方法を思案いたします。年とった人が結核になるというのは、やはりあり得る事情ですね。疲労を蓄積させないこと、規律ある生活すること、これが今のような営養不足の時の第一で、休んで補うしかありせん。それにつけても私が今半病人なのは、不幸を幸に転じることかもしれないと思って居ります。丈夫と思えばこんな生活は出来ませんものね、では又。

 六月二十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(セイロンの仏教徒の写真絵はがき)〕

 十八日のお手紙二十一日頂きました。『文芸春秋』まだつきませんか、先月末に送ったのに。本と別に送ること承知いたしました。『独語文化』は、直接日光書院に申しこみ、五月号と(六月号は売切れ)七月からずっとこちらへ送るよう致しました。三年前から出ているのですってね。封緘は全く苦笑ね、そちらでむつかしいとき、こちらも買えなくてさわいだのでした。もうやめましょうよ?

 六月二十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(佐伯祐三筆「貧しきカフェー」の絵はがき)〕

 六月二十一日
 栗林さんの受取りを、きょうさがしたのですが、どうもしまい忘れたらしくここぞと思うところになくて悲カンしています。しまい忘れということをやったのね、隆治さんの所書き式に。クマのように、そのときやたらに失くすまいとして、妙なところに入念にしまって、もう次の日ぐらい忘れてしまったのだわ、些か我ながら哀れです。あすこはルーズだから、その時の分と云って果してわかるかどうか気がかりですが、ともかく計らって見ます。

 六月二十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(石川確治筆「七面鳥」の絵はがき)〕

 今薬をのんで思いつきましたが、そちらまだオリザビトンが間に合って居りましょうか、メタボリンこの頃入手むずかしくそれでもあなたが御入用でもいいようにしてあります、きのう島田からも送って頂きましたし。どうか早いめにお知らせ下さい。きょうのお手紙に交通杜絶とあり全くそれに近いわね、御免なさい。私がやきもきするの、小さな気だとお思いになっていたかもしれないけれど、実際の事情とお分り下さるでしょう?

 六月二十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)
前へ 次へ
全220ページ中78ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング