ゃっている通りで、それは著者に資料がなかったというのとは違った原因で、あんなにポツンと切れたような章をなしてしまったのでしょうと思っていました。下巻も、恐らく理由は同じではないでしょうか。
『世界大戦』は二三日内ついでの時みてもらいます。
藤山のおばあさんは玉子と牛蒡《ごぼう》、ジャガイモ等をもってきてくれました、重いものをこの頃の込む汽車で大変でしたから、咲枝が半衿をお礼に送ると言って居ります、もう買ってあるけれど、例によって、サイドボードの上にのっかって居ます、咲枝の体も私の病気が却って幸せなきっかけとなってBの注射や心臓、腎臓の為に注射をしたりした為に、大変によくなって全身のむくみも取れ、やっとこれで普通のお産が出来そうというところまでこぎつけました。聖路加で始めいい加減なみかたをされていて、私がどうも気にくわないので水上先生に話している内に国男さんも厭がっていることがわかり、小鷹さんという曙町のお医者に紹介され、お互いに二人の医者が話し合えもするので大変いい結果になりました、家中安堵の胸をなで下しました、これで私の心配の一つは解決。この上は一日も早く寿江子が出発して、野でも山でも歩き廻っていくらか体をよくしてくれることが望ましいだけです。そして最後にはこの月中に何とか私の眼も少し改善してゆけばよいと思います。本が読めないので、片附けものでもするしかないところが、体が十分動かせないから今は苦しい時期で、三四日眠れない様な日もありました。全体とすれば勿論よくなっていて、眼もそれに従っているのでしょうが何しろ、のろいのでね、亀よりのろいわ。こちらも「急に」というのは大嫌いよ。この次若し「急に」があれば「急に」よくなるなんてことはあり得ないから「急に」死ぬ[#「死ぬ」に傍点]というのがおちで、そんなのは如何に私が楽天的でもあんまりでしょう? ですから大事にはして居ります、ただこれまでのテンポで現在がよくなってゆかないというだけです。
岩本の娘さんが奥さんになったとは、まあ、あの人は去年女学校を出たばかりよ、東京で買物のむずかしさで吃驚《びっくり》しているでしょう、お父さんお母さんの職業から人に物をもらいつけていて、シャツなど買ったことがないそうですから人間並の職業についている御良人なら結構です。もう五枚目だからやめないと叱られるわねえ、ペンさん、と言うわけです。
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