持も色々と思いやられます。
もう二通分になったからこわいこわい。
『外交史』と『微生物を追う人々』をお送り致しますが『支那イソップ』は家にないこと確実になりました。あちこち本屋を探したが、今はなく何《いず》れみ当り次第買います。本郷に一軒この文庫を持っている本屋があって、然も邪魔物扱いにしているらしくて、廃刊のようになるわけもわかるようです。友達に返す本のことわかりました。薬の葉書は着いたでしょうか。あれらを何粒ずつ飲めばよいかということは、先生からよく聞いてお知らせ致します。私は決して本も読んでもらいすぎていません。オースティンの女主人公アンさんは、日曜日に旧友のスミス夫人に会っておしゃべりをしている途中で、水曜日の今夜まで立往生なのよ。決して読み過ぎでないことはおわかりでしょう。ではお大切に。
九月二十三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 島崎鶏二筆「牧草」(一)[#「(一)」は縦中横]と野間仁根筆「越後毛渡沢溪流」(二)[#「(二)」は縦中横]の絵はがき)〕
(一)[#「(一)」は縦中横]二十三日
この絵をみると悪く親父の今日の気取り方に似た息子という歯がゆい気が致しますね。以前何時か能楽趣味の女が野原に佇む絵を描いて以来、あったら才能がカンバスの上を無駄に流れています。紫の花も白い花もちっ共愛されていませんね。秋声の息子の一穂も親父程の骨組みと角とがなくて、もまれてふにゃふにゃになっているし、芸術家の二代目は恐ろしや、ね。
(二)[#「(二)」は縦中横]二十三日
これはこの画家の傑作の一つでしょうね。細部は見えないけれど、何だか気に入って喜こんで眺めます。奥まで本気に描き込んでいて気持がいいこと。この頃これだけ根をつめた絵をみなかったものだから。私には手前の方の子供や花がよく見えないのよ。お金持の友達があって、私がこれだけ気に入っているのを明日あたりふっと買って、かけて眺めるように送ってくれたらさぞ嬉しいでしょうね。ディッケンズの小説は、このさぞいいでしょうというところから出発した空想ね。
九月二十五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕
九月二十五日
タオル寝巻をやっと出来上らしてもらって、さあ、これで嬉しいと床の上へひろげてたたもうとしたらどうでしょう、私が折角下前へくるようにと思って切った筈のつぎ足
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