りします。他にフランス『襯衣』同じく『遊歩場の楡樹』スタンダール『アンリ・ブリュラールの生涯』とを、みつかりましたからメリメの第二巻と一緒にお送りします。これらは皆お下りを読んでもらうのが楽しみなものたちですからおすみになったらどうぞ。下すったタオルはおばあさんのくれた台の上にかけて床のわきに置いて眺めています。中々きれいで且シャレています。タオルとはみえません。上でこの葉書を書き、ひどい風が外で吹き荒れて私は気分が悪くソボリンをのんで、はいが一匹その箱にとまっています。

 九月六日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕

 九月六日夜
 本当にね、仰云る通り二枚以内に致しましょう。この間、自分でもいくらか考え付いたことでした。それに面白いことは、この四、五日、全体として進歩しながら、またこれ迄にない疲れが出ていて、体中の筋肉がしこって、腕など髪をとかすさえ痛い程なので、お医者の紹介でマッサージを頼んだところ、その女の人の云うには、体中びっくりする程凝っているそうです。七回ほどでだいぶ良くなるだろうとのことです。夢中の間に筋肉が緊張していたのだそうで、それが今になって疲れとして感じられて来たのだそうです。つまりやっと其処迄病的な条件が収まって来たことの証拠だそうです。これにつけても頭の内のことが怖くなってね。自分の知らない疲れが結局は一番決定的な意味を持っているのだとしみじみ感じました。そして又この頃は落着いて来た結果、自覚される疲れと云うようなものも実際に有って、今月一杯はうんとぼんやりして暮そうときめていた処でした。
 色々細いこと迄気づかって戴いて、本当にありがとう。だから、二枚以内はお躾けとしてではなく有難く合点いたします。この間うち、しきりに長く話したかったには、色々の気持の理由が有って、考えてみればいくら長く長く話したって矢張り話し切れない心持から云っていた処もあり、一方には自分の頭がどの位正常であるか自分にたしかめたい処もあったと思います。病院のことは、今の私には家での方がずっと良いらしい様子です。食餌のことも病人の特配を受けているし、卵・バタ・果物類は色々な人が心配してくれて、何とか今迄続いて来て居りますから御安心下さい。目の方も九月末にはちゃんと調べます。それ迄は体の基本的な条件を整えるためにかかるでしょう。タオルのことは大笑いだけ
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