さい女の子が笑っている

「お父ちゃまと一緒に
 入りたいんだってえば」
 母はなおミシンを動している。

 やがて女の児がつれ去られ
 泣きつかれた男の児は
 そのあとへ這い込む
 九歳のしなやかな
 日やけ色の手脚をまるめて
 名もなつかしい
 |おじいさん椅子《グランドファザーチェア》は
 おだやかに 大きく黄ばんだ朽葉色

 気持の和むなきじゃくりと
 ミシンの音は夢にとけ入り
 時計はチクタクを刻む

 となりの子供は
 みんな出払った 休日《やすみび》の宵。

  十二月十一日

 十二月十四日 (消印)〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 コロー筆「樹陰」の絵はがき 速達)〕

 十二日朝の速達戴きました。(十三日)
 隆治さんに送る物に就て、はっきりその後の様子を申上げなかったので、気を揉ませて済みませんでした。七日に間に合うよう、電報をして、品物を揃え、母上から隆治さんに渡していただきましたが、ウィスキーや、磁石は、もしないといけないと思って、小包で島田宛送って置きました。書留小包にすると、割合早く、確に着きますから、二十五日頃もし出発が実現しても間に合うでしょうと思います。私の二通の島田宛の速達も隆治さんにお渡し下さったそうです。二十五日頃と云うのは、隆治さんの予想だそうです。お互さまに気をもみましたが、これでマアいくらか安心です。この次の面会は出来るものやら出来ないものやら不明だそうですが。小包を出したらホッとして、昨日の手紙にその事を書きませんでした。今日はうすら寒い日曜日ね。飛行機の音がします。

 十二月二十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 きょうもお軽の手紙ですが、紙を更えて。これなら恥しいほどズルズル長くはなりますまいから。
 十七日のお手紙をありがとう。
 隆治さんのことはやるだけやって見て全くようございました。あとから送った磁石(夜光)やウィスキーなどが十六日に届き十八日に最後の面会だったそうでした。ウィスキー磁石等紀さんに大骨を折って貰いました。ウィスキーはポケット用のビンではこわれるから大さわぎして水筒を買い(これも今はない)それに入れかえて送りました。隆治さんから十九日に電報が来て、
 イロイロノゴハイリヨアリガタクウケマシタゲンキニシユツパツ
 とありそれを見たら涙が浮びました。有難くうけ[#「う
前へ 次へ
全69ページ中67ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング