和服で育っていても調法だから。そちらへも広島から隆治さんの葉書はきましたか。こちらへ一昨日もらいました。何んてよかったでしょう。お母さんもこれでいいお正月がお出来です。私達同胞は運のいい方ですね。お母さんもお幸せな方です、本当に嬉しいと思う。
厚い方のどてらはもう一寸らしいのよ。その代り、それより早く、綿入れ着物、羽織を差しあげます。茶色の毛のシャツ(冬)この間送ったものの外に、もう一枚そちらに行きっぱなしになっていやしないでしょうか。それと紺大島の(御秘蔵のとは別)うすく綿の入った着物を若しや春頃お送りして、それもそのままになっていはしないでしょうか。一寸お調べ下さい。この二つがどうしてもみつからなくて気にかかります。
歯のことは市内では闇で使っています。何とか方法を講じようと考え中です。
咲枝さんの出産はずっと延びそうです。子供は大変よく育っているそうで大安心です。お留守番の稽古で泰子をねかしつけます。自分が頭が苦しかったから、この小さい頭のアンバランスも察しられてなかなかいいところをなでるらしくてトロトロよ。そして私は子供達がどっさり居る夢をみました。赤ん坊に乳をのませる間、母さんが二人を置いては眠り不足で怖しいことになるから、その間は少くとも泰子は私の養女でしょう。ものも言えず、たてもせず、それでも優しさはわかって、この頃は人恋しがり、皆の声の聞えるところでないと淋しがったりするのは全くいじらしいものです。幸い美人だから邪険にされなくてまあまあです。
カロッサの小説は、極く始めですが、大戦直後のドイツの真面目な心の諸問題を扱っていて面白いし、不幸をそういう形で経験し、表現し得た二十五年前を考えます。シュミット・ボンにもこの時代の作品で一寸特色のあるのがありました。ヤーコブという人の「ジャックリーヌと日本人」という小説は、インフレーション時代のベルリンと日本の震災時分を背景として動揺する中層の精神を描いて印象深くありました。スタンダールは読む人の成長につれて読み返される価値があり、作家とすれば、そのことがすでに一つの大きい価値ですね、私も読み返したいと思います。古行李をいじっていたら、新しい健康だわしが出ましたから、あれを使って益※[#二の字点、1−2−22]風邪を引くまいと思いますが、哀れなことには、うちのお風呂がこわれたのよ。そしてもう同じかまはな
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