人なのですもの。
 詩人と云えば、この頃あなたの読んでいらっしゃるのはどういう詩でしょうか。
 この間うちのような秋日和には、ゆたかな海の潮のみちひのうたや、暖くて芳ばしい野草のうたやがなつかしくて、裏表紙の深紅の本を折々くりひろげました。おぼえていらっしゃるかしら、あのなかに、「ああせめて私の眼がたんのうするまで」という短章があるのよ。一本の実に美しい樹の梢があるのよ。幹の雄々しい線と云い、梢の見事なしげり工合と云い、それは空にひひるばかり。一人の旅人はその樹の美にうたれ心をひかれて、その幹によって飽かず眺め、遂に手をのばしてその樹を撫でるのですが、その山地は霧が多くてね、もっともっと見たいのに忽ち霧が湧き出て梢をかくしてしまうのです。旅人は去りかねています。そして思わず心の願いをうたにうたうの。ああせめて、私の眼がたんのうするまで、と。
 それからこんな対話風のソネットがあるわ。
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あら、あなたは、どうしてそんなにいそいで行こうとなさるのでしょう。まだ日は高いわ。
私たちの影法師は、さっきから、まだ、
ほんのちょっと、
ホラ、あの樹の根元から少し動いたばかりな
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