す。七十のおばあさんは勝気な江戸っ子で多勢の子供や孫を育て、大きい家をとりまわしてこれまで暮して来て、数年前突然喀血しました。肺の故障ですって。それでもいいあんばいに大したことなくて、東京のうちに暮し、八十のおじいさんは茅ヶ崎とかに下の弟の夫妻といるの。おじいさんは謡をやり、和歌をよみ、古今の歌をよむのですって。すると、おばあさんがふっと本をよみはじめて、古典をずっとさかのぼって、この頃は万葉に熱心で、看護婦対手にわからない字があると字引きひっぱってなかなか本を集めて一日あきずにやっているのだって。そして、ぽつぽつは自分もつくるのだけれど、おばあさんのは万葉調なのよ。古今は本流でないというのですって。おじいさんは古今で「ふやけたチューブみたいに」だらだらぬるぬると多作するのだけれど、おばあさんの方は「なかなか出ない方でね」ですって。茅ヶ崎と根岸とで歌のやりとりをして、この頃はいくらかずつおじいさんに万葉風をしこんでいるのですって。左千夫がおばあさんのお気に入りだって。いい歌があると、丹念にしおりして春江のところへよこして、あとで、どうだったい? ときくのですって。おばあさんは「おかずの
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