っては水のしぶきをあげている様子。ちょいと雀斑《そばかす》のあるような顔をした男の子がかいてあったでしょう、ぷりっとした体で、溌溂として、いい匂いの髪のある。あれもなかなか爽快な作品です。
 まだすっかり夏にもならないのに、こんなに夏の詩の物語をしてしまっては早すぎるでしょうか。
 でもいいわね、季節のよろこびは、よろこびを期待するそのよろこびの中にもあるのですから。
 昨今の世の中はね、五月のへぼ胡瓜《きゅうり》という次第なのよ、野菜を目方で売買して居りますから、お百姓さんの心理として、一本でも重い方がいいでしょう、五月のへぼ胡瓜の由来です。
 だから私たちの詩についての話ぐらい、ふさわしいしゅん[#「しゅん」に傍点]であってもいいでしょう。この頃はどこでもちょいちょい畑つくりよ、うちは駄目ですが。まねして紫蘇《しそ》でも生やしましょうか。ではね。

 五月三十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(紀伊田辺・元島遊園地の写真絵はがき)〕

 五月三十一日。きのうは畳あげ、今日は古雑誌の大整理、五十貫売りました。五十貫あって十二円五十銭よ。大したものです。すっかりくたびれて、タバコ一服
前へ 次へ
全471ページ中217ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング