は又おのずから別なものでもあるのですし。机の上に美しい一輪の花と写真でもおいて、そらね、見ていらっしゃい、やっぱり私たちよく勉強しているでしょう? そういう方がふさわしいわ、ねえ。その写真もスナップのごく日常的なのがいいわ。すべての親愛さは日常の活動のなかに在ったのだもの、その表現はやっぱり何か日常的な特徴をもっていなくては。来年からは、私たち流のをやりましょう。特別何年祭とかいうのでなければ、それで結構よ。夜だって、父の話なんか一人もしやしない、隣組のことだの配給のことだの。しかしそれは私は面白いと思いました、作家の心として。人間が、どんなに生活の現実の刻々に切実かということが感じられて。
うどん粉がありませんから、料理でうすいうどんこからこしらえた皮を出すところをパンにしてあったりして。今もしお父様やお母様がいらしたらどんなに困っていらしたかしれないと国男が云い出して、皆笑って、そしてそのパン的御馳走をたべている。一つの光景でしょう?
きょうはなかなか寒く、いかにも寒中らしい空気です、上り屋敷の駅に立っていたら、秩父連山が青くむこうに見えました。この部屋は殆ど大抵火鉢なしです、日がよくさすから。でもきょうは机の板がつめたく感じられます。手袋ホコホコでよかったこと、あれは傑作のうちね、もうあんな柔かい可愛いのはないわ。大事にして、又来年寒中だけつかいましょう、前後はすこしわるいので辛棒して。きょうは、いかにも寛闊な、インバネスの翼が肩の上にあるような気分です。そうでしょう?
二月五日ひる 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
二月二日
三十日にかいて下すったというお手紙、まだつきません。どうしたのでしょうね。
きのうは、あれから小川町にまわって高山から本をとって、伊東やへ行って子供たちへのおみやげ買って、それから小田急にのろうとしたらまず栄さんがモックリモックリ段をのぼってゆくのを見つけ、やアとインバネスがふりかえったらそれは繁治さんでした。まアねったよう、というのは、北海道のおっかさんでした。それに豪徳寺でおりたら健造とター坊が、父ちゃん来られないんだってと来ていて、珍しい一隊をなしてくりこみました。
大きい紅茶の一組になったオママゴトを卯女に買って行ってやったものだから、そのよろこびよう! 康子にはクルクルまわる輪車に、お人形、栄さんは下
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