に関する本で焼きたくないものはかなりありますね。明治文学に関する古い出版のものにしろ一旦やけたら、やはりなかなか再び手に入らないでしょう。個人の書物がこんなに露出されていると、本当にせめて上野の図書館ぐらい安心であってほしいと思いますね。もしあすこが本当に安全であればまとめて寄附して、いつでもつかえるようにして貰ったっていいのにね。あすこが又どうでしょう、上野駅に近いのですもの。
 多賀ちゃんへは手紙こちらから出します。今日つづけてかいてしまいましょう、何かにとりかかるとつい手紙を不精してしまって。きょうから『新世界文学史』にかかります。そして、これが終ったらカル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ートンを見て日本文学の作品を直接よんで、いろいろ段々と面白い計画をお話しいたしましょうね。例えば、この頃英雄ごのみがあって、ナポレオン伝やニーチェ伝がよまれるのよ。英雄とは何でしょう、ニーチェとはどういうものの考えをした人でしょう、私はそういうことも分るようにしたいと思います。同時に平凡ということの真の意味も。そういうトピックについてスタンダールの作品、ニーチェの「ツアラトゥストラ」やショウの「人と超人」や二葉亭四迷の「平凡」、花袋の「田舎教師」が出て来るだろうと思います。平凡の実質は高まるということについて、ね。
 読まれるものの意味と、そういうもののよまれる心理をはっきり描き出すことで、私たちは自分の生きている生きかたを知ることが出来るでしょうから。
 親と子とか、友情とか、そういう風に扱って行きたいのよ。性の課題ではトルストイが親方として登場するでしょう、「クロイツェル・ソナータ」。性の扱いかたの偏向、フロイドの或種の亜流や何か、をも見ながら。だからなかなかなのよ。腕を高くまくって肱まで粉につけて、深くよくこねなくてはね。しかし、もしうまくこねて焼ければ、これはそう不味《まず》くはない風味の食物になり得るでしょう。モラルの形でなく、人間の真実としてまともなものを示したいと思います、モラルや風格ならほかのひとがやりますから。恋愛のことについて書くとき私は恋愛小説の存在の意義をも明らかにしたいと思います。所謂真面目な恋愛小説というのはどういう要素に立って云われるべきかということを。「ウェルテル」にしろ真面目だったでしょう、あの時代としては。しかし今日の意味には、通用し
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