しは好ちゃんに会いとうございます。泣きたいほどです。でも私は涙が出ると、いそいで鏡を見て、ちゃんとして、ちっとも泣きなんかしないようなふりをいたします。そして元気な手紙をかきます。私は好ちゃんもきっと時々はせつないときもあるだろうと思って、私が泣いたりしてはわるいと思いますから。でも私は欲ばかりだから、きっと好ちゃんは、私のことをちゃんとわかっていてくれると信じて居ります」
 もっといろいろ書いてありました。そのたよりをよむと、泉子のぽーっと上気した顔つきや単純で熱烈な表情や身ごなしがまざまざとして。泉子もいつか成人したものと思います。好ちゃんのたよりおうけとりになるでしょう? 相変らず精気にみちた様子でしょう? こちらへはたまにたよりよこすだけですが、それでも片鱗のうちによく全貌がうかがわれます。本当にすっとするような男らしい美しさだから、泉子が思わず私に訴える思いのあることは十分察しられます。泉子の恍惚ぶりが決して不思議でなくて、その自然さがやはり奇麗だからいいものねえ。そういうときの泉子のきれいさは、花びらの真中に見事な蕊をもっているような、微塵空虚なところのない姿ですね。あなたもあれを御覧になればきっと、そうね、何と仰言るかしら。仰言る声をききたいものだと思います。月曜におめにかかります、十七日から三日間お休みつづきよ。

 十月十六日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 十月十六日  第四十四信
 きょうかえって見たら十三日のお手紙着。楽しみにしてね、先ず封を切らないまま二階へもってあがって、それからすっかり部屋の掃除をして、途中で買って来たきれいな淡桃色のカーネーションを机の上に、それから赤い小さい玉のついたつるもどきを北側の窓のところにそれぞれさして、すっかり顔を洗いいい心持になって、開封式。きょうはうちは(というのは二階はのことよ)あしたのお祝の準備でうれしいことのあった日で、私も思い設けぬヴィタミンをのむことが出来たし、本当にいい午すぎです。小包二つも送り出しましたし。本とタオルねまきに紐を。本は御注文のがないのに、ほかのあれこれ入っていてつまらなくお思いになるかもしれないけれども、まあもし気がお向きになればと思って。文庫類の品切れの多さはどうでしょう。
『文学史』、一昨日あれから神田へまわりました。東京堂で年鑑を見たらアルスから出て
前へ 次へ
全236ページ中204ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング