。それでもお母さんたちは昨晩は広島に一泊。いろいろの様子をきょうきいて、そしておかえりになるということになりました。
 いい塩梅に、慢性でないし、ほかにくっついたものがないし、ただお酒が入っていて、注射がきいたかどうだか分らず、そうだったら迚も痛い目を見るでしょうが、ともかく命に別状はないでしょう。けれども私は恐慌よ、というのはね、一つの家族の中に盲腸の出る条件は共通なので大抵つづけるのよ。父の亡くなった年国男(夏)私(十二月)。お母さんも十六日にはすこし張ると云っていらして私はやいやい云って横におならせしましたが、もうどんどんバスにおのりになるし。
 こうやって今朝は平静ですが、ゆうべ電話口での声は一寸おきかせしたかったわ。ロバにこういう声もあるというようなところでした。だって前夜一時ごろまで飲み歩いて、と一緒にいた人がかえって話していたしね。お酒の入っている盲腸の悪化の迅さは天下一品です。戸台さんがそうでした。そのとき徹夜して手術の番をしていて、宮川さんというお医者様からそのことききました。倍のスピードで悪化するって。だからキーキー声も出たわけよ。広島で盲腸の手おくれで命をなくしてなんかいられませんからね。しかし、達ちゃんへの手紙で余りお酒のことはおっしゃらないで。素面《しらふ》で船にのれるだけ勇気のあるものは少いそうですから。気がもてんのじゃそうです。隆ちゃんなんかのこと考えるわ。あのひとは今どうでしょうね。もとは飲まず立って行ったけれど。お母さんがおかえりになったら(きょうの午後になりましょうが)そしたらこの先の様子つづけます。なかなか千変万化でしょう? 私のかえるのもこの調子では見とおし立たず。もうすこし様子みて決定いたします。塩十銭、五銭、五十銭というお客。バット一つ、あれ二つこれ一つというお客。なかなか立ったりいたりです。便利瓦ありましょうかいな、と云って入って来る。さあどうでしょう、そう云って店の鴨居に貼ってある公価目録を片はじからよみあげる。ありませんですね。そうじゃのう、お世話さん、どうもおあいにくさま。(ここの調子は名調子よ。)店には今肥料は一つもありません。豆タンの袋、セメンの袋、石粉。煙突左官などの材料。
 鴨居の品書き
          五吋  四・五吋  四吋  三・五吋  三吋
 石綿煙突  一本 三円  二・六三 二・二五 一・五
前へ 次へ
全236ページ中148ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング