なりません。「伸子」から後の発展、展開は複雑であって、余り歴史的で、片々たるものにはつくし切れないのね。しかし、あれから次の長いものをつなぐ踏石としては、「広場」、「おもかげ」、「乳房」、その他あって、筋は一筋貫いて居りますが。その点で私はたのしみがなくはないのよ。「おもかげ」にかかれている青年の死をめぐる一くさりも、もっともっと描きたいところです。いろいろいろいろ書きたいわ、ねえ。
夜着の裏が切れましたって? 困ったわね。やはりカバーがないと駄目ですね、あの方はカバーなしでしょう? あれは丈夫な木綿でこしらえたのに。でも、夜具の裏が切れるなんて面白い、(面白くないとも云えるけれど、それだけ臥ていらっしゃると思えば、でも女はきらないから、そんな生活の力もっていないから)ね、手袋なしですむようになったら、あの大事なフカフカ手袋すぐかえして頂戴ね、大事、大事にしまっておきましょうよ。もうあんなのさかだちしたってないことよ。お恭ちゃんは、只今顔剃りに出かけています、おしゃれして、親類へ行くのよ。洋裁は七日迄春の休みです。十一月一杯で卒業よ。メン状くれる由。そしたら田舎でひとに教えられるとたのしみにして居ります。
周子さんがもうそろそろ来るころです。その話をかこうと思っていたら、こんなに二通も到着で、私は歓迎にいそがしくて、紙は一杯になってしまったわ。何とひどい風になって来たでしょう。東京の春は、これでいやね。女の人はちっとも美しくなれないわ、風に吹きまくられて。風が吹くと、ほんとに日本服の愚劣さを感じます、衣類が人間の肉体を守るのではなくて、衣類をまもるために女は体を折りかがめて苦しむのですもの。
では、マタアシタ(これは太郎が夕方友達とわかれるあいさつ。)
四月七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
四月三日(紙がこんなで御免なさい)
今は夜で、机の上のアネモネの花がつぼんだために花茎をぐっともたげたような形でかたまっています。
あちこち宿題の手紙をどっさり書いて、それから仕事をしようとしてその下準備にレオーノフの「スクタレーフスキイ教授」という小説をよみはじめ、いろいろ面白くてずっとよみつづけているのですが、よみながら私の気持は二重に働いていて、どうしてもねじまがりにくい方向へ自分の頸をねじまげようとしているようで、どうも駄目だ、何故だろうと
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