この頃はいろんなインチキ会社が出来てね、とんだ会社員でくみ立てられた会社が、一流会社のようにひとをだましているらしいようです。空巣も大ばやりです、花見にかけてだから。そしてこれは実に面白い、質札買います、という広告が新聞に出ます。もとはなかった広告でしょう? そんな会社にしろ、世間の必然でだぶついて来ているものを吸収して、どしどし破産させてゆく力は旺盛です。そう云えば文芸春秋でよこした国債が大当りでもすればいいのにね。
太郎、あのお手紙に返事かいたかしら。きょうはおなかをこわして臥ているそうです。あのお手紙に、熱のない風邪のことかかれていて、本当に、と思いました。さっきの肝臓病のこと、肝のあるおかげで肝をつぶすというようなこともあるけれど、こればかりはとれなくてね、盲腸のようには。今夜は大層早寝いたします、何だかくたびれがあるの、くたびれが出ていると分るときは、すこし正気に立ち戻ったわけなのでしょう。土曜日ほんとに御免なさい、考えれば考えるほど、すまなかったと思います。
三月三十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
三月三十日 第十七信
覚えていらっしゃるかどうか、目白の方から上り屋敷の駅へぬける通りに大野屋という米屋があって、そこはこの辺の大地主の一家のやっている米やで、大変いばった米やなの。そこが配給所になったらいやだナと思っていたら、きのうかえりに通ったら大きい白い紙に謹告として、発展的閉店の余儀なきに至りとありました。うちの配給米屋は目白の消防署の裏です。一週間ごとに配給して来るそうです。一日二人で五合の割で、滞在客は十五日以上、もらえる由。冠婚葬祭には特配なしのよし。三度外食のひとも働きによって食糧がちがって切符制です。甲乙丙とあります。その点どこも同じになりましたね。何号の御飯という点で。
この大野や米やは大した金持故、きっと儲けがなくて人をつかうような方法をとるより一組合員となる方を選び、組合員と云っても、達ちゃんの自動車の組で、いろいろの事情が内にあるわけでしょう。でも、やはり一つの風景ではあります。
お手紙の店の消長のこと、私にはよく判っているつもりよ。本当によくわかっているつもりです。私が頭でだけわかって胸はバタバタしているというのでなくわかっていることは、いろいろの調子で十分おわかりでしょうと思って居ります。ですから、
前へ
次へ
全236ページ中68ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング