子供っぽいことですが。でもきらいだわ。自分の勝手でばかりやさしい声したりして。暗黙にケンセイしたり。大変むきつけに書いておやおやとお思いになるかもしれないが御免なさい。書くと下らないようなことだが、心持では腹の立つこともあるのだから、あなたは「ホウ、ユリはむくれてるナ」と思ってきいていて下さればいいのよ。誰に云う人もないと、昔話の木こりは木の洞に自分の云いたいことを云ったというでしょう、あなたは御亭主だから、私のジリジリもおききにならざるを得ないのよ。あしからず。
 面白いのねえ。本当にまともな気持でたよりにしているのかと思うと、信頼という本当の気持は知らないで、スルリといつか利用の面へまわってしまっている。だからあいては、本気でためを思ってやって、やがて腹を立ててしまうところが出来る。
 ところで、富雄に召集がかかって八月一日に出かけます。何《ど》ういう種類の召集か分らず。明日たか子が御相談いたしましょう。いやなところを思うとムカムカするが、一人の若い女が、ともかく世の中と組みあってゆくのですから、同じ利用するにしても大局的なましの方向に役立つ以上、利用されてやるつもりでは居りますから、その点は御安心下さい。
 十九日づけのお手紙。いくらかでも冷たいトマトがあればまアまアね。玉子は売りに出ていますが、痛んでいるリツが多いから。牛乳はおなかにあって居りますか? 下痢になりませんか。アメリカあたりの標準で、体のためになるのは四合五勺が単位ですね。ただそれだけはのめますまい。料理に入れるのを入れてですから。どうかうまい組合わせで栄養をおとりになるように。そのことでの倹約は全く無意味よ。味噌汁は汗をかいた体のために力がつきますが、召上るでしょうか。塩分がいるのです、汗をかくと。塩分は非常に大切のようです、肉体の疲労には。
 島田からかえりのこと、一般的なこととしてよくわかります。半徹夜なんか絶対して居りません。そうすると朝おそくなり、体がもちにくくて、暑さ一層凌ぎにくいのですから。本当に、いつかの夏、林町にいて、四十度熱出しましたね。そして、叱られたこと! よく覚えて居ります。よく眠ること。体に力のある感じにしておくこと。それはよく気をつけて居りますから。今夜も十時半には眠るでしょう。先日うちのように、一日の大部分暑い外にいると頭がボーとなります。うちにいると疲れ大分ちがいますが、いつもそうばかりもして居られず。
 読書案内のこと、はっきりそう思います。例えば「古代社会」だけで、発展が示されなければ、河出のあの結婚や何かを法律上しらべた叢書をあてがったって本質は何も知り得ないのですから。婦人伝についても、この頃多く出るのは回顧風のものね。その点婦人作家論はちがうつもりです。記録のこと、しらべました。
 これからすこし明朝渡すものかきますから、又ね。

 八月一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 八月一日  第五十三信 これで順でしょう?
 妙にこんぐらかりましたから先ず、土曜日のことから。土曜日は多賀子が立った日で、朝そちらへゆき、私は夜東京駅まで送ってやりました。家を出るときは気がつかなかったけれども、往来を歩いたら頭がクラクラして足が浮いて千鳥足の気分だものだからびっくりして、送るとすぐ家へかえりました。
 日曜日は、それでもどうしても読まなければならないものがあって、昼間じゅうそれにかかっていて、夕飯後すこし書いて早ね。月曜日にそちらへゆき、少々ピンチと云っていたのはそのことです。今まで、体がつかれて苦しい気のしたことは始終ですが、こんどみたいに、体はしゃんとしているのに頭だけ妙になってものもはっきり見えないようだし、目まいがしてあぶないようなのは初めてなので気にしていたわけです。でも、月曜日は午後の六時半から明舟町の新協劇団へ前から話にゆく約束があって、人があつまっているのにことわれないから、早く夕飯たべて出かけようとしていたところへ、てっちゃんが就職がきまったと云ってよってね、そちらへゆきたいが、では明日は私はゆかないからというようなことで、私がめの舞う話もしたわけです。二三日ひとの来ない家のことの考えないでもいいところで、フーフー眠りたいというようなことから国府津へ林町の連中がいるので、行こうかしら。行きたいけれど、やっぱりなかなか思い切って行けない、宮本が行って来いと云ってくれると行けるようなもんだけれど、など話したわけです。じゃあした話しましょう、そうね。こんな工合で、すぐ出かけて、私は虎ノ門へ出かけ十時半ごろ帰宅したわけです。
 一時間も落付いていず、私は出かける前でバタバタして別にそんなことを、話して貰うというはっきりした依頼なんかするわけもないし、半分笑い話のようにしていたのでした。私がはっきり、
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