説の正しさのわかるものとして書けたら。
こんどの長篇は、きょうの歴史を描くわけですが、その次一つそういう歴史をかいて見ようかと何となし楽しみです。女の生活の面から見てね。エリオットに「ロモラ」という代表的な歴史的な作品があります。ルネッサンスのイタリーを描いて。勿論これはエリオットの色と調子ではりつめられているものですが。
いろいろ勉強がこねられて来るというのは面白いものね。この頃、やっと気まぐれでない勉強の意味がわかりかかったようです。例えば『文芸』のを一貫してここまで来ると、いろいろはっきりして、今『現代文学読本』(日本評論)のために書いている(栄さんにたのんで)「昭和の十四年間」は、一昨年正月にかいた「文学」(三笠の)よりずっとましになりました。そういう成長はたのしみです。これまでの十年のみのりをちゃんとまとめたいと切望いたします。今年『文芸』のがまとめられて、小説が一つ長いの、あと短いのいくつかとかければ私は本当にうれしいと思います、フーフーが一段落つくというのは、それに又忘れられないうれしさです。
この長いのは、私は本気です。非常に本気です。題材は必しも「伸子」以後、つまりひろ子をそれなり扱い得ないとしても、いろいろな点では芸術的な価値で「伸子」の発展であらなければなりませんから。この完成のためには本当に本気です。ほかの仕事考えていて、そのことにふっと心がゆくと、暫く眠るのを忘れます。
明日行こうと思っていたけれども、二三日のばした方がよいとのことですから、十六日にゆきます。十六日、十六日と思わざるを得ません。ねえ、そうでしょう、ではどうかお元気で、かぜお引きにならないようにね。
二月十六日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
二月十六日 第十五信
けさお手紙をありがとう。スィトピーはよいとして白いカード? やっぱり玉子組? 風邪の気配のことについての短いお心づけは大変いろいろ感想をもってよみました。本当にいろいろ感じて。少しと書かれていることが先へつづけて考えられるし、無用のという字の見えるところもいろいろわかり、衛生について考えて下さることよくわかります。変に神経質になるのはよくないねという声もきこえるし、無用の気づかいに至っては、気は病から、となるが、まさかユリは其那ではないのだからと、折りたたまれた心の道。面白いと思います
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