て是非来てくれというので、二月八日に行く約束しました。龍宮荘というのへゆくのよ。面白いでしょう? 旦那君のいないとき、昼間行くの。そのアパートにもやっぱり鼠が出ます、「人がいても出ます」とよろこんでいるのよ、「ここと同じこんで」と。可愛い気質です。そして、あなたに重ね重ねよろしくとのことでした。お体をお大事に、と。でも、このことづては例えば昨夜のようなときも何人かから貰いますから、大変どっさりなわけなのだけれど。では又ね。本当に悠々《ゆうゆう》と、ね。どうぞ。
一月二十五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
一月二十五日 第八信
きのうは電報をどうもありがとう。前便を出しかたがた市場へ、小樽のおばあさんにあげる手袋を買いに行っていたあとにつきました。本当にありがとうね。くりかえし、くりかえし、いろいろによみます。僅の字でもいろいろの声がして。ところが、それでもきょうは何だか病気のようになって午後まで臥《ね》ていました。風邪気のようでもあったのですが。何だか体じゅう切ないようで。ゆたんぽを二つもこしらえて背中と脚とあたためて、ひる頃妙なさむけはとれて、一時間ほど眠って、目がさめたらずっと楽になって、それから夕刻まで一気に仕事しました。何とおかしいでしょう。
御気分はいかが? 私の病気がうつらないように。肺炎が大流行です。そのための特効薬がないので死亡率は高うございます。私はチフスと肺炎では死んでいられないと思って用心です。きょうはそれで、午後から夜にかけての会は電報を打ってことわり、欠席。きのうだって九時そこそこに床に入ったのに。きょうもまたそうします。
多賀ちゃんはきょう帝劇で「早春」と「花のある雑草」という映画をみて来ました。ひとりで、切符が来ていたので。面白かったそうです。来てから初めての映画ですから面白かったでしょう。まだ芝居は築地の「建設の明暗」(中本たか子)だけだし。なかなか遊べませんね。いつかの手紙で申していた多賀ちゃんのとなりの娘、あれは来ないときまりました。工廠が出来るから村の内でいくらも就職できますからって。それはそうです。そこで、小学校の女先生の知り合いから、十五ぐらいの娘さんをたのむことにしました。夜の時間を勉強にやってやりましょう。お裁縫なり。これは多分できましょう。そしたら私も一安心。その子のおっかさんはどこかで働い
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