、あなたはどうお考えになるでしょう。極めて微妙な大切なことだと思うのですけれど。
私の作品が一つから一つへ進歩の道標とならなければならないように、好ちゃんの成育もそのように一つの段階から一つの段階へと導きすすめられなければいけまいと思います。
私はそのために力をおしまないつもりです。どうかあなたも助けて頂戴。好ちゃんのように卓抜な資質のものを、その一定の発展段階にとどめておくなどということ、私には堪えられないことです。彼をほめてやる言葉を私たちがひととおりしか持ち合わさないなどということは、寧ろ腹立たしいでしょう? ねえ。
ユリは欲ばりだ、そうお笑いになりましょうか。笑われてもうれしいわ。
ひとの美質とその生動をより深くと理解してゆけるようになるということは、つまり私たち夫婦の生育ですものね。私たちは多面的に成長しなければなりません。
私は自分のことを云って勝手ですが、この一二年来、いろいろの点成長出来ました。そして、それは去年の夏、詩集の別冊で「素足」というのや「化粧」というのを私がよんだ頃から自覚されて来た影響です。前の手紙でかいた一生懸命倒れ式の精神が、他方にバランスをとり戻して来て、一つの発展をいたしました。私たちの生活の中では一冊の詩の別冊でも何と大きい影響をもつでしょう。
それから後、あなたもいろんな短詩をおよみになりましたし、それを私につたえて下すって、そしてこの間のあの大波の際、今までよまれていた詩集の全巻が、初めから終りまで再読されるという戦慄的な味いで、又私のところに何かが熟しました。みんな其が文学の仕事にてりかえります。何ということでしょうね、人間の生命の様相というもの。
あなたはどうお思いになって? 私たち互の流れ合うものも、随分この頃では川床がひろく面白い起伏で飛沫もあげるようになって来ているでしょう。
よくそう思うの。そこにある手紙の束のなかにある私の姿、私たちの様子、どんなに次第によくなってきているでしょうか、と。どんなに段々と夫婦らしくなって来ているだろうか、と。単純なものから複雑な甘美さをもちつつあるか、と。
ああ、きょうはどうでしょう。まる一日あなたと暮しました。
この頃こんな大部な(!)長篇的手紙はじめてね。そして、私目玉のつれるわけ今わかりました。だってこんな細かい字、こんな全心の字、この位かけば目玉だって
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