来て、二人で夕飯たべて、さて十時頃になって、どうしたろうと戸棚みたら包ナシ。ハハアと大笑いしたり、ふんがいしたり派出婦根性をおどろいたり。
タカちゃんは却っていん方がのんきな、というから、では二人でやって、若い小さい娘でもタカちゃんがいれば一人でなくていいから、たのもうというわけに納りました。タカちゃんもゆっくりした気になって島田でやっていたとおりよく働いてくれて、本当にいい娘です。
三十日は夕方、佐藤さん夫妻と戸塚へゆき、おそくまで久しぶりに喋って遊んで来ました。いねちゃん二十九日にかえったの。健造たちのうれしい顔ったら! 何てうれしそうなんだろう、顔にウレシイとかいてある、と私が云うと、とろけそうな顔に笑って、体をよじっている。その稲ちゃんのところで又一人にげられたの、可笑しいでしょう、二人小さい女の子がいた上の方が、姉娘。よくない娘だったからまアいいのですって。皆、暮から正月へ荒っぽい金がほしいのね。派出婦なんかきっと三十日から三箇日ぐらいやとわれて、ガタガタやって、よけいに金をとるというわけなのでしょう。短く働いて数をこなして、ティップなんかあっちこっちで貰いたい、そういうわけなのね。こんなところでも私は日本の風習の混乱を感じます。何か手つだって貰った女へのような心づけのしかたをして、しかし派出婦として高く日給とるだけには技能もなく、おもしろいわね。派出婦のスポイルのされかたがよくわかりました。家庭笑劇一幕。
三十一日は一日二人で働いて、私は二階の本の整理。文庫本がまとまらなくてやり切れないので、去年の冬、牛込の方、というところから送られて来た戸棚の本箱、どっかの古物屋でお買いになったらしいの、あれを二階へあげて、あなたの坐ってつかっていらした大きい机の上にのせて、そこへ文庫大半しまって、大変まとまりました。久しぶりで床の間の板が見えて来て気持よくなりました。
それから、あなたからのお年玉である『秋声全集』も床の間の本棚の方へ入れて、夕方やっとすみ。二人きりで夕飯の仕度するより、外へ出てたべようと云うプランでしたが、どうともおなかがすいてやり切れなくなって来たので、たかちゃんがお国流に煮たお煮しめでちょっと夕飯たべて、門松をうちつけて、それから誘いに来た佐藤夫妻と栄さんのうちへ行きました。
そしたらね、ここに又一つ話があります。それは栄さんの妹さん
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