なかにゴムの湯たんぽをかかえこんでかいているの。変でしょう?
きょう、そこの裏の池袋へ通じる市電の停留場にいたら、風がスースーと体にしみてしみて、何とも云えない気がしたら、かえって気分わるくて、パンをたべるとすぐ湯タンポを二つも入れて臥てしまって、午後やっとおき出し、この体たらくです。
この間うち暖かったのに急にこうだから。春は荒っぽいこと。面白さと云えば云えるけれども。
あなたもどうぞお体をお大切に。この頃の気候は血を出す人の多いときだそうですね。そのことについて面白いことききました。普通の人は、ドッと出ると非常に驚愕して思わず息をつめるのですって。出すのを抑えようとする反射的な動作で。すると、そのように息をつめたあとは、どうしても深呼吸になる。そして血を戻すことになり、窒息がおこったりする由。出るときは上体を斜におこしたもたれかかった姿勢で、かるい咳で出るのは出して、そして塩水のんだりひやしたりした方が大局的な安全の由。この間その話きいて、いつか書こうと思って居りましたから一寸一筆。ハッと息をつめる感覚がいかにも実感でわかるもんだから書きたかったわけです。私には成程、と思えて。自分は、息をつめそうですから。あなたはもう身につけていらっしゃる注意かもしれませんが。
この火傷はね、十九日の制作品です。前日、二十七枚もちょっとした感想かいて、十九日の夜は星ヶ岡で座談会があって、そこからかえって、やれやれといかにものーのーしてお風呂に入って、いい心持で煙突のあっちにある歯みがきのコップをとろうとしたの、半分眠ったようなうっとりで。そしたら、自分の腕の短さ、その円さをすっかり忘れていたので、下の金具にチリッとして、本当にチリッと云ったような大きい感じでハッと目をさまし、オリーブ油をぬってねましたが、次の日われらのお医者が見てしっ布しろというので、あの形です。すこし紫色になって来たからもう大丈夫でしょう、化膿はしませんでしょう、ひきつれにもなりませんから御安心下さい。今はハンカチーフをたたんでくくっておくの。シップでふやけそうでいやなので。
それから、今夜種痘いたします。これをしないとこわくて。いろんなこと!
お母さんからお手紙で、やっぱりすこし風邪で神経痛がなさいましたって。そして前の河村の細君たちにいろいろ手つだいをして貰ったとおたよりですから、明日あたり何
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