ていやでした。その感じも殆どなくなったら、昼間おきているとどうもなくて、夜床に入ると夜半そのために目がさめる位脚からおなかにかけてつれて痛みました。その頃(先月の二十日前後)は夜楽にねるために腹帯をとっていた時分です。そこで、又腹帯をすること(眠る間も)にして、その代り一工夫して、これまでの一丈二尺もあるのをやめて、短いのにうすく真綿を入れて広幅のままおなかをまき、夜中もそれをややゆるめにして眠ることをはじめたら、段々効果があらわれて、おなかの工合がましになりました。つれがなくなったし、おなか全体の内部が落付いて、腫れぼったい感じや不安感がなくなって、おなかも幾分ちぢみました。こわい気持なしに、ずーっとおなかをへこますことも出来るようになりました。この四五日の状態です。半年かかるというのは、直接つれのことではなく云ったつもりでした。半年かかると、傷をいたわり、腹もちが何となく気がかりということを、すっかり忘れ得るそうだということを云ったつもりでした。やっぱり手術のとき、腸をひっぱったりいろいろやるから、何だか腹の中がもめた感じで、毛細管が鬱血してでもいるような腹もちのわるさであったわけです。この四五日おなかがしまって来たことがはっきり分って、大変快適です。私の体は神経質なところのあるたちだそうです。そのために、そういういろんな点がきついのだそうです。今そちらへは行きだけ拾って居ります。調子がいいところで気をつけようと思って。でももう十日には行きも歩きましょう。その計画です。今月一杯間をおいて出かけ、来月は冷えることもずっと減りますから従前どおりに段々戻るつもりです。
家のこと。さがして見ましょう。九月ごろ空くようになるだろうという家は、特に寿江子が一緒に暮すために好条件であったので、私一人のためには、家主が友人の親戚に当るという便利しかないわけです。尤も、これがなかなか大事ですが。実際借りるとなると。女主人のところは二の足をふみ、又その他等々で厄介な場合が多いが。寿江子はいろいろ話し合いの結果、一緒に暮すのはしばらく保留。寿江子は林町の離れに生活するという計画に決定しました。もしお久君がいなくなった後、二人でやって行く場合、寿江子の体の工合が果して二人でやってゆけるだけ丈夫になっているかどうかわからず、この秋から一年も林町の離れでやって見れば大体疲労の程度もわかるから、それからにしたいというわけです。私もごく毎日を無駄なく暮したいのに、寿江子のむくれ面で気をつかうのはいやですから、それもよかろうということにしました。ですから家は私とひさとの暮しを条件として探すわけです。
エハガキ、面白いでしょう? 絵はいいところがありますね、一目瞭然で。今、あの茶の間の外の小庭の眺めをかいています。それと門のところの眺めと。その二枚が揃うと、随分われらの家が視覚化されるわけです。手紙の中で語られる様々の情景が、はっきりしたそれぞれの場面となって、道具立てをもってそちらにも浮立ちます。私はそれを大変たのしみにしています。ハハム、ユリがここで悄気《しょげ》ているな、ホホウ、こんな庭を向いて気焔をあげるのか。それぞれに面白いではないの。
私の手紙は二日(十一信)四日(十二信)という工合です。
○富雄さんから返事がけさ来ました。自動車の方は技術として身につけておいて決してわるいことはないが、小母さんが危険をおそれるのと、ガソリン統制が新たに営業を許可しない方針となっていること、ガソリン払底で木炭自動車を購入しなければならず、それにも厖大な費用がかかるので、却って工場へ入って月給をいくらでもとる方が生活の不安が少いからその方にしようと思うという話です。工場の方へは履歴書を出した由。今、家賃が二十円程入るそうです。それで三人の食費はあるそうです。(何と東京とちがうでしょう!)それにいくらか月給をとることが出来れば嫁さんをとって生活も出来るから、とのことです。島田で雇った運転手が、下松で電信工夫をひっかけてしまい、下松の病院に入れてあるそうです。それやこれやで、小母さんもすっかりおじけついてしまったのでしょう。お母さんもまたそれの善後処理や何かさぞ一人でお働きでしょう。一月二十七日のことだそうです。早速お見舞のハガキ出しました。
富雄さん、猶よくあなたの御意見も伺いたいと云って居ります。
○用件を統一的に片づけるという点についての御注意。書いて終《しま》うと気持で片づいた気になる、というところは、おお痛いと思いつつ思わず笑い出しました。本当に面会、手紙、用事の統一と系統化は大事です、よく心がけましょう。事務的性能の向上ということについての注意は、どうも随分くりかえされなければならないところです。父のお得意の言葉にシステムということがありました。
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