ちはまだ初歩ね。出来つつつくるという微妙な創造の過程があって。
二十八日
二十五日づけのお手紙けさ着きました。間に日曜日が入っているからこれで普通です。どうもありがとう。リアリズムの土台について云われていること、いろいろ暗示に富んで居り、考える点があり、これもありがとう。作品の世界のつながりで浮ぶ場合、そのありようは、もっとずっと歴史的で(質を云えば勿論、お手紙に云われている点もそこに入るのですが、時間的に)その大局からの必然の題材というわけなのです。いずれにせよ、しかし、ここに云われていることは、或点にふれている真実です。箇人主義的眼光で真のリアリズムはなり立たないということは、あらゆる場合の真理です。どうもありがとう。
私の小説は、やっときょうあたりからそろそろあらわれ始める様子です。
K運転手が応召だそうで、一時廃車になさるつもりのところ、加藤という古くからの人が達ちゃんと同時に出征して、かえるとき呉々もたのまれているそうで、何とか今の雇主と話しをつけると云っているそうです。いかがになりましたか、まだお返事は来ませんが。Kは実に小さい体で精一杯やってくれましたから、きょう速達で餞別送りました。ポツンとした手紙ね、御免なさい。又かきます。せき立つものがあって、内から。だもんだから。では又ね、きのうはかぜで一日フラフラでした。どうぞお大切に。いやなかぜですから。
十二月六日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
十二月六日 第一一〇信
随分御無沙汰いたしましたね。きのうは、朝七時半に書き終って、実にいい心持にそれから眠って、おきて、そしておめにかかったわけでした。御褒美、御褒美という気持。勿論作品がそれに価するかどうかはわかりませんが。
盲腸いかがですか、痛むの? 又風邪と二人づれで来られないよう呉々御注意下さいまし。疲れてかぜをひきやすいようなとき、又きまって盲腸がグズつきました、私でも。
今度は、丁度書きかけて或クライマックスのとき十二月二日、一日別世界へ参入しておのずから感情をうごかしたので次の日そこで冷えた。(スティムなしですから)風邪と一緒にブランクが出来て変になって、それで到頭四日の夜から朝へというようなことになりましたが、大体は徹夜なしです。あの晩も用意おさおさおこたりなくね、ベッドちゃんと用意しておいて、二時から四時までよく眠ってやりましたから(昼間もねておいて)大丈夫でした。御心配になるといけないから。でもやっぱりしらん顔で十時にねました、とも云えずね。「広場」つまりプロシチャージ、そういう題です。四十枚と二行。
テーマは「おもかげ」のつづきで、そこに二年と何ヵ月の年月が経て、もうかえろうというときになって、朝子という女だけ、作家としてそこにとどまって働くように云われる。そのよろこび、感動。素子という女とのそういう人間的な問題についての感情のいきさつ。朝子は止まろうかどうしようかということについて非常に考え、自分が自分として書くべきものがどういうものでなければならないかということは、そこの三年の成長でわかって来ている。しかし作品として真実にそれを描けるだろうか、その生活の絵模様の中に自分が体で入って描き出している線というものはないことを考え、より困難のあるところへ今はかえることの方がより誠実な態度であると思う。「そのかげには保のいのちをも裏づけているこの三年よ、もし自分をここに止めようとする好意があるならば、これから自分が又ころんだりおきたりして経てゆこうとする、その態度もよみしてくれるだろう」そういう気持でかえる決心をする。そういうことです。保というのは「おもかげ」の中で語られている朝子の弟で、自殺した青年です。保という名で「伸子」の中に出ています、小さい男の子として、シクラメンの芽生を犬にふまれて泣いている子供として。朝子は「おもかげ」でも朝子。「一本の花」の中で只或る仕事をしてそれで自分の暮しも立ててゆく、それで女の生活の独立はあるように思われているが、人間の仕事とはそこに尽きるものだろうか、と職業と仕事との本質について疑いを抱く女が、朝子です。
伸子は題名として今日では古典として明瞭になりすぎていて、人物の展開のためには、てれくさくてつかえなくなってしまっています。伸子、朝子、ひろ子、そういう道で脱皮してゆきます、面白いわね。朝子は重吉の出現までの一人の女に与えられたよび名です。朝子が万惣の二階で野菜サンドウィッチをたべるような情景から、彼女はひろ子となりかかるのです。そして、それからはずっとひろ子。
「広場」では、これまでのどの小説もなかった一つの主題を最も健全に扱っていると信じます。そのことでは小さいながら一つの大きい意味があります、尤もそこいらの月評家にこれは分
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