ども。
何も急にどうこうというのではなくても、考えておおきになって下さい。そういうことが長い習慣でいつとなしわかってゆくというような道は、つまりいろんないろんな書くものを読んで頂くということしかないでしょうし、又現実の生活での私の感情を見ていただくしかないわけだけれども。でも私としてはやはりあなたのお気持をききとうございます。――たまには私も宿題を出してあげなければね。
それから本のこと、電話できいてわかりました。あの手紙が今度見つけた本に入っているのです。その本はいろいろの文章をあつめてあるのですが、その中に確にあれがあります、御安心下さい。
今夕はこれから御飯たべて、富士見町へ行きます。そして、かえったらおふろに入ってグースーねるのがたのしみ。でもこの頃全く徹夜はいたしませんよ。手の膨れもあれ以来平穏です。
詩集をユリが耽読しすぎはしまいかと思っていらしたのではないでしょうか。そう思って、あなたが当分、詩の話はおやめとなったりすると私は悄気《しょげ》ます。そういうことは絶対にありません。この前の手紙かで云ったように。ですからどうぞ、そちらにある詩の本もおねがいいたします。
では明後日ね、本当に落付かぬ気候ですからお大切に。
十一月十八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
十一月十八日 第一〇七信
十四日づけのお手紙けさ。ありがとう。そうね、この前のは四日に頂いたから十日ぶりです。
手の工合ひきつづき平調です。今はちっともはれて居りませんから大丈夫。今月末は、はらさないつもりだがどうかしら。あやしいかな、どうしても二十日前後から眼玉グリグリですからそうなるのですね。でも養生法は、只劬ったりするのは何にもなりません、お説のとおり。大いによく考えてやって居りますから御安心下さい。よく眠ること、食事に注意することその他で仕事はへらしません、読むのを小説の間御許し願いつつ。三共のユーキリン(燐)をのみますがこれはいいらしい。理研レバーも、私のように肝臓をひどく患ったものには必要だそうです。しかしレバーは薬でのまず、私はいきなり肝ゾーをたべることで補います、薬多種は趣味でないから。
臭剥(シュウボツ)という薬(臭化カリウムを土台にしてつくる鎮痙剤)はうちの家庭薬で(母の代から)三年ほど前あの栄さんと山に行った秋の夏、いちどきに仕事しながらつかれると盛にあれをのんだらおでこや何かにそのためのホロホロが出来てね、それを疲労からだと思いちがいしたことがありました。ですから今のところ私にはこのごくありふれた薬はタブーで、ユーキリンというわけなのです。
佐藤さんたちが近いのでちょいちょいした相談に便利です。生活をよく知っているから。
坂井さんは北京です。北京には「囚われた大地」をかいて林房がトルストイのようだとか云って私がカンカンになったりした平田小六だのその他そういう人たちが何人もいて、百鬼夜行的光景を演じているらしい様子です。『百万人の哄笑』の作者はゴーゴリのつもりで見ているらしいが、ユーゴーもあやしくて、本当のところは心配でなくもないというわけです。何しろ北京は古都の飽和的空気がこわいと石介さんが南京へうつったのだそうですから。
スケッチ、あんなのでもスケッチね、シクラメンの鉢があったり青木が冬の赤い実をつけたり、いきなりとなりの羽目が出ているのや、おわかりになったでしょう。いまに物干のところ描いて貰いましょう。そして玄関のところかいたら、うちは相当立体的になるわけですが、私のスケッチの方は代筆たのむ、のくちだからどうもはかどりません。
あか子はね、今おめにかかれません。キリョウのいいところおじちゃんにおめにかかるべき筈なのですが、只今は髪の間にしっしんが出来て瞼まではれぼったくしているので。きっとお湯のとき頭を洗う、その濯《すす》ぎがうまくゆかなかったのでしょうと思います。この調子では春になりましょうね。木枯しの中つれてゆくのはすこし冒険故。
読書のこと。翻訳の仕方ということは実に関係が大きいと思います。初めの方だけ岩波の文庫本で出ていて、あれは先お話していたように何しろ漢詩をかくひとが訳したのですから、実にわかりよく精神活動の美さえつたえられていましたが。でも私はもうこれには謂わばへたりついているのですから。骨格というものは実に大切ね。そして、例えば作家として年も若く単なる生得の直感にたよってだけちゃんと仕事の出来る時代がすぎると益※[#二の字点、1−2−22]このことは考えられます。文学の豊かな肉づけのなかに埋められてしかもその肉を人体としてまとめるもの。
私はこの前の手紙で作品にふれて云っていた思意的な生活感情というもの、それを自身の文学活動の骨ぐみとして押し出して仕事します。来年の仕
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