につたわりかたが又別だから。
隆ちゃんの話、ようございましたね。すこしは落付かせてもやりたいと思って居りましたから。
私の体のこと、生れつきどうこうより、これなり一番よく使ってゆくという気分で、拘泥して居りませんから、本当にどうかそのおつもりで。今風邪流行です、お大切に。呉々も。うがいしていらっしゃるかしら。
十一月十一日(消印) 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(自宅庭の絵はがき)〕
『日本経済図表』お送りいたします。それから『シベリア経済地理』と。これは大森の奥さんからです。このエハガキは今年の早春雪のある日の庭です。右手に出ているのが四畳半。茶の間の長火鉢のよこから描いたもの。未完成のガラス戸の横に火鉢、私のおきまりの席。「黒蘭の女」案外つまらぬ。ベティ・デヴィスという名女優論は後ほど。
十一月十五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
十一月十一日 第一〇五信
今建具屋が来て、やっと戸扉がつくことになりました。普通ガラガラと引いてあける扉ね、あれの上のところだけすかしにしたのです。すっかり上まで板だと、入ってからが二足三足しかないのに、何だか息苦しいようですから。これは外からピチンとしまるの。かえったらカギであけて入れるのです。もういつかのように物置小舎が留守の間にカラというようなことはなくなります。こうして暮の用心、ひとりになったときの用心しておくわけです。25[#「25」は縦中横]円也。家をもっている以上ここはどけませんから。足の都合がよくてね。門のあたりのスケッチ御覧にいれたかしら。ないでしょう? いつか寿江子、踏台にエノグ皿のせてもち出していたが距離がなくて(門前の通り一間ぐらい故)うまくかけないと云ってそれぎりになったようでした。
『新女苑』という女の雑誌に諸名流と門というのが出ています。それぞれの御仁がそれぞれの門に立って文句をかいているの。吉屋、宮城(琴)佐藤(春)林(芙)吉田(絃)里見というような人たち。里見さんだけ格子の前に立っている。婦人雑誌の趣味というものの一端がよく出て居るでしょう? 勅使河原という生花の師匠は生若い大した男ですね。活花のセンスというような表現で、若い女をひきつけているのがよくわかって笑ってしまいました。縫紋の羽織袴、ステッキついてね。この頃三十になるやならずの若い男が日本服袴の(羽織縫紋にきわまったり)流行があって、この間小山書店の若い男余りキチンと袴はいて、そのヒダのような形して玄関に立っているので、どこの何者かと、思わずキッとなって、あとで大笑いしてしまいました。変な奴と思ったの、実は。すこし正気で、ないんじゃないかと思ったのでした。あっ、こんなこと内緒内緒。彼はおそらく大した芸心によってその紺絣をきて袴はいているのでしょうからね。そういう形式が感覚へ入って来ている。文芸批評の本もののないことが、この流行一つだってうなずけます。あたり前の心持でいるんじゃないのだから。
小説をこねながら。
「貧しき人々の群」、それから「伸子」、「一本の花」から「赤い貨車」、それから「小祝の一家」、「乳房」、この間にまだ書かれていなくて、しかも生活的には意味深いいくつかのテーマがあります。「赤い貨車」から「小祝の一家」までの間で。今書こうとしているものなどは、そのブランクを埋めるものですね。前の手紙で一寸かいたようなものだから。ごく短い「阪」というのを知っていらしたかしら。これもやはり質においてこの間に入るべきものです。でもこれは全くほんの小さい部分を小さくかかれているきりで、(小説ではなかったから)生活の成長とともにあらわれる作品の体系というものを考えます。全集というものの意味についても考えます。ね、いろんな題材をかきこなしているというそういう全集の展望もある。作者の一つの主観でまとめられた世界がうかがわれるというそういう全集もある(夏目、志賀等)。社会のいろんな問題が一杯あるという全集もある(トルストイ)。それから、歴史と個人との活々とした関係が、作品の成長生活の成長の足どりを一つから一つへと語っている、そういう全集が日本にいくつあるでしょうか、人生の見かたの所謂完成の姿はあり、それなりなり成った道はあります、宇野にしたってそうです。けれども作品の体系そのものが生活というものの方向と発展において一つの芸術を語っているようなそういう全集。一つ一つと作品を生んでゆく、その生活そのものが、作品以前の芸術であるという感じ、そのものを完成させようという希望(仕事とともに)、そういう生きる思意が漲った全集。そういうものをのこせたら作家はもって瞑すべしですね。
私はこれから、この点を考えて作品を書いてゆきます。
でも「刻々」の時期に「刻々」があり、「その年」のあるべき
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