ノかむわね。太郎は、はにかみのひどい方ですから。太郎カナ字がよめるのよ。いつか林町へ手紙下さるとき、太郎あてにごく短いカナの部分をかいてやって下すったら、きっとよろこぶでしょう。
 それから本月私は慰問袋やすみます。林町から二人へ送りましたから。早くあげたかったけれど、と云って居りました。たまには別の人のも又いいでしょうから。隆ちゃん、本はやっぱりすこし荷らしい様子ですね。どんなにしているかしら。もうさむいでしょう。
 てっちゃん来。二十四日ごろ久しぶりで会いたいからそちらに行く由です。お天気がよかったら、赤ちゃんをつれてゆくそうです。やっぱり会いたくなると云うことです。それはそうだわ。島田あたりが町になった話したら、ヘエヘエとびっくりでした。あの村もきっとその中でしょう? あなたの方が消息に通じていらっしゃるわけです。
 きょうは組合が食塩ナシでした。本年の冬はいろんな大ビルがスティームなしになるかもしれない、なりそうで小ビルはホクホクですって。寒帯劇場になるそうです。そちらと同様の生活ね。面白いものです。新聞に「タバコ店ゆずる」がどっさり出ます。昔はタバコ屋というものは権利を買うのにむずかしかったし、確実な商売とされていたものでした。これも昨今らしい風景。
 島田からの手紙(たかちゃん)で、お母さん、この間の十七日には大分楽しくおすごしになった様子です。三味線をおひきになりましたって。何年ぶりでしょう! 結構ね。あなたから手紙も来て安心した、とその前のおたよりでしたが。その三味線のことはお母さん上出来、とほめてさしあげるつもりです。私がよく「お母さんは出来ないことがないが、たった一つまだ出来ないのは、気をゆっくりお持ちになること」と云って笑っていたから、きっとそのことも出来ることになさろうというのね。何か人の生活というものを沁々感じました。それから、時々の心のくつろぎというものについても。私から見れば、お母さんの、そういうおくつろぎの折々の気持というものは無限の背景をもってうつりますから。もしわきにいて、そんなにしていらっしゃるのを見たら、きっと涙がにじむでしょう。そういうところがあるわ。その小さい、無邪気な、謂わばその人の心でだけのくつろぎの姿は。
 もうすこしすると大森の方から、ある女の先生の世話で派出婦が来て、おミヤさんはかえります。その女のひとは縫物が出来ることを条件にたのみましたから、私が仕事の間で下へおりて来ると、そこにはあなたの冬物が縫われているという、いくらか家らしい光景が現出するでしょうとたのしみです。若い女のひとが一刻も早く来てほしいと思って居ります。今は派出もありません。経済的にはたまらないけれども、一人ではやれませんから。ではお大切に。今年は早く寒くなりますそうです。

 十月二十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 十月二十一日  第九十七信
 夕飯になる迄一寸おかみさんのお喋りをいたします。
 けさ、大森から派出婦の、フヂエさんという丸い若い女のひとが来ました。府下の生れで、七人きょうだい。お父さんは精米やさんの由です。一年半派出しているそうです。その全体の様子は、もう二年前であったら、お女中さんをしたにちがいない人ですが、只今では一日一円三十銭、いくらでもひま[#「ひま」に傍点]のとれる派出になっているという人です。ですから、気がおけなくて、楽でようございます。
 おミヤさんが明日か明後日はかえるので、そのお礼にハオリを一枚買ってやらねばならず、目白の先の呉服屋へ出かけ、その表地、裏地買って、あなたの着物の裏買って、ザブトンの布をかって(これは三割スフでも木綿だから)かかえてかえって来たら玄関に岡田禎子が珍しく立っている。それからいろいろ劇団の話をきいて、先刻かえったところ。
 そしたらガス会社から人が来まして、来月からガスを小さくして(火口を)、そして消費だかも一〇立米へらすことになり、金高にすると四円いくらのものが三円いくらであって、それを超すと翌月はガスをとめることもあるということになりました。こんな小さい世帯でこれ丈ですから、大きいところは随分ちがいますね。たべものやなど、五十円のところ三十五円ぐらいというから、そうすると時間を短くするしかない由。したがって上りがへる。ものが反対にあがる。勢たかくなる。この頃は全くそとでものは食べられないというようなものです。所謂洋食などはペケ。私は外でたべないからたすかりますが、つとめている女のひとなど、自炊していないひと、大変ですね。二十銭、三十銭という食代にやはり何割かがかかって来るわけですから。
 玉子あがっていますか? 私の方は殆どやめです。市場(あすこの目白の角の)で午前中うりますが(一人に百匁)黄味があのいい匂いの代りに妙に
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