wどエハガキの下の細かい印刷文字と等しい。よむのさえ大変。よくよく目がよくなくてはかけまいと笑ってしまうほど。私と私の愛するかたの健康と幸福とを祈るとあります。私の愛するかたと云えば、つたえるべきかたは一人しかないからおつたえ致します。この著者には前に福沢諭吉、新井白石の伝がありますね、大教育家叢書とかいうなかで。
 一昨日は、この間うちからもうすこしでまとまるところになっていた開成山図書館へ送ってやる本の選択完結。『シートンの動物記』それからイーリンの時計や本の歴史、などそろえ林町へわたして、一安心いたしました。シートンが動物の生活を見ている見かたは、ファブルの昆虫より遙かに平明で、平日的です。ファブルの南方フランス気質の誇張やドラマティックな身ぶりはない。ややキプリングの「ジャングル・ブック」に似ています。やはりアングロサクソンの気風がある。しかし鳥のハドソンには劣りますね。こういう動物生活の研究者たちは何故しっかり科学の上に立ちきれないのでしょう。そして、チンダルがアルプスの氷河や旅について書くようにかけないのでしょうね。変にロマンティックになってしまう。シートンが、バルザックの「沙漠の情熱」アラビアの守備兵のフランス人が沙漠で一匹の牝豹と一つ穴にくらし牝豹が彼を恋す。逃げ出そうとすると豹が怒る、友軍に出会ったときのがれるために豹を射ち、その体を抱いて泣く。その豹の眼の色が恋した女のに似ていたから云々というような下らぬ話をそれなり筋だけとって書いたりしている、ことわりはチャンとつけていますが。これは動物の生活の研究者の書く話ではありません。シートンは画家でもあって、細君と二人天幕をもって何年もロッキー山脈のあなたこなたを旅して暮したのですって。書くものはともかく、そういう暮しはわるくあるまいと思いました。この人の顔の表情はすこしファブルに似て居ります。それでもやはり面白いものは面白く、今度寄贈のためにあつめた本の代金として国男の払ったのは五十円位ですが、大抵七割八割での本で、実質に到ってはなかなか優秀です。太郎が毎夏開成山に暮します。いつかはそれらの文庫をよむでしょう。「三年に一度ぐらいずつおやりよ」とすすめて居ります。こうして本のいいのが集ったら手元におきたい心持が実にする由。「だからうちでも一つちゃんとした本棚をおつくりよ」と云って居ります。揃って居るとよむ、そういうのですね。食堂のファイアプレイスのよこの棚をそういう本の棚にすればよいと云って居ります。さがしてよむのは本ずき、手近にあるのでよむ、それが普通。本のない家庭というのはいけません。太郎のためにそろそろ心がけなければ。
 二十三日に工合が格別でなくておめにかかれればうれしいと思います。先月は八日以後は三度でしたが、本月きのうまでで三度でしたね。二十三日の後もう一度月末ぐらいという割合でしょうか。もしかすると遠いから無理でしょうか。無理かもしれませんね、用がさし迫らなければ、私は辛棒いたしましょうか。
 夏のかぜというのは妙なものですね。ぬけにくいということはきいて居りますが、本当にぬけにくいこと。汗をかく、ゾーとする、クシャミスル、ハナが出ル。そういうことがくりかえされるのです。こうだからとそちらの大変さがわかるようです。
 市内の赤痢は相当です。物価があがったから原料など惜しみます。そこからも原因がある。いろいろの世事。葦平が若松市の高額納税の第六位で一万何千とかをおさめるとか。古谷綱武という評論家(でしょうか)は独特な人ですね、『丹羽文雄選集』の編輯者となって、一巻毎に解説年表その他古典に対すると同じことをやっている。トーチカ心臓の世渡り二人組。林芙美でさえ、歎じて曰ク「男のかたは皆いいお友達をおもちだから」云々と。それは横光=秀雄などというコンビネーションについての場合だそうですが。
 私は人の心のすがすがしさを求めます。誠意の安らかさと、つきぬ深さとをもとめます。そして、この渇望が、この頁の第一行めに結ばれるのです。はげしく、激しく。こうかくと、自分がまだどんなに光の源泉、安らいと励しの泉というようなたのもしい人物からは遠いかがしみじみとわかりますね。求めることにおけるアクティヴ。これはいろいろに考えられますから。考えの糸はまだつながって居りますが、一応これで。お大切に、どうぞ大切にね、

 六月二十二日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 六月二十一日  第五十四信
 この手紙は、さっきの手紙を書き終ってから下の四畳半へ引こしをして、旅行からかえって来た足につぎのあったカリンの四角い台をおいてそしてかき出しました。ここは右手に窓があってそこから光線が入るものだから、書く手元にうすい手とペンの影が落ちて、何だかシュールリアリストの「手紙」
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