l子を知りたい心持、どうかしらという心持、その故ですね、どうぞあしからず。夜具使っていらっしゃること知って一安心です。ひさも、「マアようございましたこと」とよろこんで居ります。
 きのうはあれから一度家へかえって、電話かけて、仰云っていた弁護人のひとたちのところを訪ね、用向きを果し、それから新宿までまわってひさのお祝いにやる帯の仕立てのことをたのみ、島田へお送りするお菓子を中村屋で発送注文をして六時すぎ、へとへとになってかえりました。きれいな干菓子お送りしたいと思ったらこわれるから送れませんて。そこで、懐中しること古代もちとをお送りしました。
 かえって見たら、そちらから小包が二つ来ている。一つは写真、一番古いのから。段々見くらべて、最近御上京のときまでのを見ると、そこには何と生活の様々の推移が示されているでしょう。達ちゃんの出征のときのはまだそちらね。
 もう一つのをあけて見たら、古くからの手紙類。一束一束見てゆき、ああと体の中を暖い、いい心持のものが流れわたるようなうれしさで、くたびれだの、眠られなかったことだの、すーと忘れるようでした。そこにおかれてあるのね。そこにおかれてある。そこにある。これは感覚に訴えてさえ来ます、一日のうちには幾度か、その視線の下にあり、そして折々ひろげられ、互の生活の全身を響かせるのであると思う。よろこびの感情や幸福感は、何と急に、思いがけない包の中などから立ちのぼるでしょう。適薬のききめとこのうれしさでゆうべは実にぐっすり眠りました。枕へ頭おっつけて、挨拶をしてあげて、自分のおでこのあたりに、紺大島の紺の匂いを感じながら。
 書類についてのことは、きっと今日話があると思いますが、よくわかりました。すっかり全部とるということが徹底しましたから。昨夜速達で大泉という人の写し上中下三冊送られました。あとは出来しだい、片はじから金を払って、片はじからお送りすることにしてありますから。
『ミケルアンジェロ』は近頃での感銘ふかい本です。もうすこしで終ります、きのうは電車の中までもって歩いて。感心した点は、およみになって居るからくりかえさず。私はメレジェコフスキーがルネッサンスを書いた(レオナルドを中心として)小説を昔よんでいて濃い印象をのこされているので、その根本的な現実の姿として面白い。ブリューゲルの絵を、ベルリンの画廊で見て、あの時代の画家の中では目について離れない、その画家が語られているのも親密です。ブリューゲルの絵は、つかみかたがいかにも生活的で、色も落付いた美しさに充ちていて、上質の散文のような美です。レムブラントを詩とし、ルーベンスをゴブラン織として。
 この著者は文章にも一方ならぬ苦心と注意とを払っているのがわかりますが、文章の仮名づかいのこと(音表式でゆく)どうお思いになったでしょう。作家の保守的なこのみからでなく、よんで行ってどうお思いになったでしょう、例えば「わ」という字、「は」の代りにつかう。「はなわ」、「はなわ」どっちが「花輪」か「花は」か、勿論前後のつづきでわかると云えるけれど。音表で、は、わ。へ、え。を、お、等統一されることはローマ字への便利のため、子供のため、いいと思われますが。ぶつかるようで初めよみづらかった。これは単なる習慣でしょうか。変ってしまえば、それでなれる、そう考えてしかるべきでしょうか。
 今日の国語、国字の改良問題運動の中には卑俗なものその他がどっさり混りこんでいるのは実際ですが、たとえば子供|読《よみ》ものの再吟味で、講談社が氾濫させ、子供の注意を散マン低下させた粗悪な漫画がいくらか減ったのなど、やはりよいことの一つとして作用しているようなものです。
 女学校に英語はいらないという声があって、県によっては早速やめたりしたそうですが、今度必修課目の一つと決定。これはきわめて当然のことです。英語が何も立派だとか高級だとかいうために必要なのではないのですものね。カンは指では切れない、カン切りがいる、その謂であるのですもの。語学そのものをかつぐのはタカホ夫人板垣ぐらいのものです。
 きょうは、『ミケルアンジェロ』を読み終ってそれについての感想、かかなければなりません。メレジェコフスキーのレオナルド、それから新書でやはり出る児島喜久雄の『レオナルド伝』へも連関させ、書くの、たのしみです。
 イギリスにマリ・ストウプス夫人という性に関する科学研究家があります。妻、母としての生活の面からいろいろの研究をしていて、一つの本では、自然というものの洞察において非常に優秀と感じたことあり。日本では婦人の医者で、両性の生活を語る人は、最も低い科学性(自然の美への感動や愛や人間感応の微妙さへ十分ゆきわたらない)に立ちやすくて、所謂単なる生理において語っている、それは、いつも、そういう
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