ャNを起して柳眉を逆立てました。玄人《くろうと》のくせに。早速直させます。
きょうは体の節々が痛いようです。
若葉のかげの白煙も大分、今は低くなりました。まだ低く漂って居ります、白く光って。
隆ちゃんの出るとき、芝生で皆でとった写真来ました。台紙に貼ってお目にかけます。隆ちゃんがあなたに似ているのに稲ちゃん、びっくりして居りました。
達ちゃんや隆ちゃんへの送るもの近日中に手配いたします。隆ちゃんへは支那語のやさしい便覧すぐ送りましょう。
土曜日、余り厚く着ていらっしゃるのですこしおどろき気味でした。寝汗おかきになってうすら冷たいの? どうぞどうぞお大切に。ピム、パムはあなたの左右からお対手に侍《はべ》りたいようです。御気分のいいとき、ゆっくりと森や丘や泉の散策もいいかもしれません。本当にお大事に。あなたが、着実に体をお養いになるよう私も着実な勉強をつづけますから。では又明朝。
五月十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
五月十日 第三十七信
お早う。いかがなお目醒めですか。よく眠れましたか、私はぐっすり。体はまだ幾分きしむところがありますが。寝汗は出ませんでしたか。寝汗をかくと非常にだるいのだそうですね、背中がぬけるようなのだってね。寿江子の話です。きょうもいい天気らしい。
きのう二時間余つづいた青葉かげの白雲は板橋志村のセルロイド工場でした。志村はいつか手紙に書いた太古のタテ穴住居(穴居的)の遺跡の多いところです。見学したタテ穴の一つに火事の起ったらしいところがあって、そういう穴居人たちが火事でどんなにさわいだかいかにも興味深く感じて見たことも書きました。同じ地べたが、今日では同じ火事ながら大ちがいのわけですね。志村には東京で初めての女校長のいる小学校があります。江戸っ子でね、大層肥ったひとで賢い人ですが、この婦人は自分の経験と活動の方針について、自分一代はこれぞという大したことはしないように心がけている、由。女校長にこりさせない為の由です。初めてのがああだったと市の関係者や校長仲間の男らしさ[#「男らしさ」に傍点]に抵触しないための心くばりです。代々幾人も女校長が出るためには、初代はそういう考えも必要なのね。間接ですがその話をきいてフームと思いました。アメリカなどだと、精一杯、男の同僚をしのぐだけの力量を発揮することが必要です、どういう部署にしろ。そうでないところなかなかの紆余曲折があります、特殊な。文学にだけはマアない。マアないと申すのは、やはりいろいろデリケイトであって、小説の場合と評論の場合とでは、どこか感情としてちがうところがありますから。そういう男らしさ[#「男らしさ」に傍点]は文学の領域にも残存して居りますから。
九の日をすこし飛ばして貰うことについて徳さんにハガキ出したら返事が来て、お大事にということです。何か面白い翻訳をしているのですって。家は無事です、まずね、とあり。これもニュアンスのある表現です。うた子さん、劇務でつかれているのです。徳さんも就職のこといろいろ考えている様ですが、そう簡単にはありません。どこにでも口があるというのでは決してありませんから。誰でも欲しいのは一部分ですから。
『改造』へは、この間一寸一葉のことを書いたひきつづきの興味で明治開化期前後の女流作家の開化性(文学で金をとるようになった)と、文学作品そのものの内容の社会性とのいきさつについて、花圃や一葉やその他の人々のことを書いて見たいと思って居ります。楽しみなところがあります。明治文学史に一つもふれられていない点ですから。そして、このことは今日婦人作家のありようについてもいろいろ示唆するところがあり、些かはその点にもふれたい。それに、山田美妙とのいきさつによって自殺した田沢稲舟という婦人作家の社会からうけた儒教的な批判の性質、自然主義以前の馬琴的文学者の気分等も見てみたいと思います。一葉と桃水とのことにしろ、実に平凡です。一葉の若さ、教養の通俗性(それはひとりでに硯友社趣味に通じている)いろいろ考えさせます。その時代から野上彌生、俊子、千代と経て来た日本婦人作家の作品における世界のこと、生きかたのこと、やはり面白い。千代が、ああいう男性彷徨の後今日その文学性よりは元軍医総監とかいう父親の地位の方がより確実であるかに見える人を良人として納ったこと、やはり現代的です。今日は婦人作家が筆一本にかける自信をゆるがされている、経済的にもね。芸術的には勿論。文学にたずさわる名流夫人(今井邦子その他)の安固らしさにひかれる心持。一葉が若い生涯の晩年に到達した文学上の自信は、一歩あやまれば彼女の勝気さの故に到って卑俗な気位に近づく性質をもっていましたが、ああいう意気はお千代さんには決してない。男性彷徨の後、所謂風流
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