ィこしました。私が目醒し時計。お母さんはおきなくてはならないと思うと、よくお眠れにならないのですって。だから又例によって私がおこし役。私の可笑しい特色ね、こんなに眠りん坊のくせに、大抵おきなければならないとき目をさますというのは。どういうのかしら。かけねもなく、あなたにほめて頂いたのもやっぱりこういう目醒まし役でしたね。それを思うと笑える。そしてその笑いは段々と優しいニュアンスを帯びて来ます。眠たさで、重く柔かになっている体や、いやいや青茶をのんでいらっしゃる手つきや。
達ちゃんからお母さんと私とへ手紙が来ました、十六日に出している。島田へ来たことをよろこんで居り、隆ちゃんにとっては何よりの餞別でどんなに意を強うしたかしれない、と書いてあります。母上の方へは、顕兄さんのお気持も十分わかります、深く感謝しています、と書いてありました。大同の人たちは一部(年かさの人々)が帰還するかもしれぬ由です、勿論はっきりは分らないけれども。若い達ちゃん達は後まわしですが、本年中には、と書いてある。辞典が大いに役に立つ由。誤字がすくなければそのおかげ、とありました。
達ちゃんは面白い。私宛に書くときより、お母さん宛に書く手紙、見違えるようにしっかりしていてゆき届いていて、なかなか急速な成長です。お母さんが三十年来商業に従っていて、後天的に商業をたのしむようになっているから、商業のために忙しいのは決して不満でないのを知っているから、お忙しくて却っていい。そういうようにも書いています。私へは、書くことが家事に即さないのといくらか、かたくなるのね。写真、あなたの方へは送ってよこしますか。東京へと思うと何か気おくれがする(写真)と書いてあるので笑いました。父上の御一周忌くり上げたらよいと達ちゃん申していますが、これは予定通り決してくり上げません。そういうことにきまって、お母さんもお上京になるのですから。よしんば又五日ぐらい私が来なければならなくても、やはり六月六日がようございますから。
これから達ちゃんと寿江子に手紙かきます。寿江子は今主婦代理故、二十六日の夕刻ついて、それから御飯の準備ではこまるから、今日献立を云ってやっておくのです。
野原小母さんお見えにならぬうち、と大急ぎなの。冨美ちゃんがついて来て、私が二階にいたのでは何に来たのかわからないと思うでしょうから。
きょうはひどい風。晴天。二十一日にお墓詣りいたしました。隆ちゃんが宇品を立つ二時二十分ごろ。きれいになっていて、ぐるりの林の中には山つつじの薄紫の花が満開です。山々はどこもつつじの花盛り。賑やかです。その花を折りとってお墓に飾りました。只道が実にけわしくてね。岩根とごしき山をのぼり、まるで「平家物語」よ。お母さんだってあぶなくいらっしゃる。山から雨のとき水がどうどう流れ下る、その溝や洗い出された岩が、つまり道ということにして使われているのですから。ですから年々ひどくなるのです。去年より又ずっと足場わるくなって居ります。
きっとこれが島田からは一番しまいの手紙でしょう。立つ前もう一度お墓詣りいたしましょう。きょうは二十三日。あと四日。一日がせわしくて短くて、そして無限に永い。こういう妙な日々。ではね。
四月二十九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 日光中禅寺湖歌ヶ浜のいづみや旅館より(男体山の絵はがき)〕
なかなか珍しい組み合わせで且つ珍しい小旅行です。只今湖畔の古風な宿の広縁で椅子にかけ小テーブルでこれをかいて居ります。きょうは一日ふらりふらりと歩いて、湖の静かな眺めがなかなかようございます、建築を二度見に来ようとは思わないが、自然はよい、又季節がちがったらどうだろうか、と思わせます。明日は湯元まで四五十分ドライヴしてお湯にも入り、高山の景色もお目にかけて夕刻かえります。山影が湖面に面白い変化を与えて居ます。
五月四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
四月二十三日 第三十五信
野原の小母さままだいらっしゃらない。二階で勉強していると、お母さんが上っていらして、これをお土産にどうだろうと、女のつかう胸からかける前かけをおひろげになった。純綿だが、と。ああこれは大変いい思いつきで皆よろこびます。咲枝、寿江、ひさ、みんな一枚ずつ頂くことになりました。一枚、1.30。東京に木綿のはなくて皆ほとほと閉口していますから。お母さんおみやげを心配なさるから、こちらの例のいりこ(これは決して東京では手に入りません)、ういろう(太郎と目白に下さる由)、それにこのかっぽう着。なかなかやっぱり気づかわれます。でもまあこれもいいでしょう。
おや? 下でどうも賑やかになって来た。小母さまらしいこと。でも呼び出しがかかる迄ねばっていよう。ほら、上って来た、冨美公。きのうチブスの予防注
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