突入った内部的なありようがとりあげられるようになった細かい動機について考えて見ると。勿論、あなたは以前から、いろいろとユリの成長について、上にかぶさって来る或はひきずっている様々のものを見ていらしたし、それについてふれて来て下さっていましたが、去年は、私が自身の生活事情が変化したことから、それを凌ぐ、或は受けとめる内心の要求として、自分の作家的な経歴というようなものや何かにつよく執したと思います。へこまない、ということを、そういう面の強調で表現し、自分自身の力としたと思う。それが、あなたには、私の変な硬化の危険として、おどろくように映ったと思われます。そこで、これまでより一層、明瞭、強固な表現で多くの注意が与えられ、攻城法が用いられ、暮の私の連信まで到達しました。この心理のいきさつは実にくりかえし、考えるねうちがあると思う。私として、自分の抵抗力を、そういう形での言葉の響をきくことでさがしたということ(我知らず)のうちには、そのときは心付かなかった自身への甘えがあり、本質的にはやはりその境遇に負けていたのであり、言葉で何とくりかえしても要するに、只空気をふるわすだけで消えることであり、実にあぶなかった。あなたは時に、私の髪をつかんで引っぱるぐらいだったのです、あの頃。この前の手紙にもかいたと思いますが、去年あなたが、ああ正攻的であったのは、何という深いよろこびでしょう(相すみませんが、今日沁々とわかるところの。あの頃は苦しい、苦しいと思った。)私たちの生活のうちの忘れることの出来ない一節であると思います。私の最大の、そして相当身についている弱点は、この甘さです。この頃は、この甘さの百面態がいくらかずつ見えて来ました。自身に甘えるところがあって、現実が現実として見えることは決してない。作品がそうです。その世界に甘え、その世界を見る自身に甘えたら、決してリアルには描けない。おたばこ一服になる。おたばこ一服ではまさかにないが、私の長い作品について、云っていらしたことね、(傑れた作品にするには云々と。生活の態度について)あれは本当です。はっきり本当と思います、あいさつとしてではなく。私はこの前後のことを考えると悲しいようです。だって、私は何故自分でそれだけのことを自身について発見して行けなかったろうか、と。そして、そういう力のなかった場合(あなたからの数々の気付き)、自分はどんなになったろうかと。これは考えると全く泣けるほどです。芸術家として生活人としての成長というものの、おそろしさ。ね。一寸正当な眼くばりをおとすと、忽ちスーと、おし流された揚句に眺めれば、陸はあすこであったかというようなものであり。
 戸塚夫婦の生活には、こういうものが、形をかえて去年秋現れたと思います。パニック的なものの中から、やはりあっちはあっちとしての成長を見せています。無駄にころびはしなかったと思って見られます。そこにも実に云えない努力があるのですが。(二人の)其々のタイプ、其々の伝統、それによってころんだり鼻面をひんむいたりして、進む。一歩なりとも進めれば幸と致さなければなりますまい。自身の努力というものが現実にあるとしてもそれに甘えれば、努力の成果そのものの本質の価値が逆転し逆作用するところ、何と活々とした人間の生活でしょうね。
 低い丘しか歩いたことのない人間がやや山らしい山を一つのぼったことで、フーと息ついて、いや実に俺は山を征服したというような弱さ。そういう弱さや小ささの面から見ると、実に人間はその大多数が虫のようでもある。武者の人生観などこんな面と、例えばミケランジェロなんか見較べて、人間は見ようによっては実に力よわいものだが、又他の一面から見ると、実に偉大だ。それに驚くばかりだ。などという人間一般論を出すわけでしょう。
『ミケルアンジェロ』、そういう本でしたか、あと送って下さい。表のこと、すこし信用がまして来て嬉しい。自分のプランから脱れたとき――つまり黒丸の日だけ云ってあげるの? 何だか妙です。黒丸の日だけ起床、消燈、頁とかくの?
 今夜おばあちゃんのお客。いろいろの心持でこれから仕度にかかります。もしかしたらこの家で御飯にひとをよんだりするおしまいかもしれないから。あっちこっちスケッチしてよかったこと。私たちのこの家を深く愛します。
 アパートでこまるのは生活が露出してしまうことです。これがどうなるか、一番の要点で一番マイナスの条件だから。この点本当に慎重です。あとのことはサバサバするだろうと思えます。
 ひさは四月一杯いられるかと思ったら、名古屋の姉が出産しこもち肥立ちがよくなかったらそちらへ行くことになっているのですって。浮足が立っているから。アパートは豊島区内にさがしたいと考えています、かわって、初めてのところへなど行くと、つまらぬ好
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