おりて行って、お茶をのみながらそんなのを読むと、文章で云えば小品文のおけいこですが、単純で未熟だが、やっぱり興味があって特別な心持がします。プーシュキンの詩が、その北方的なものが一番ぴったりすると云っている。寿江子が、例えばストコフスキーという人の指揮ぶりの非本質性を本能的に見ぬいたり、ストラビンスキーという、日本の現代作家80[#「80」は縦中横]パーセントがその亜流であるような在フランス作曲家の非音楽性を見ぬいたりするところは、健康な資質で貴重だが、その健全の可能が、どのように伸びるか。そこには又おのずから私とちがうもちものもあって、一般音楽会のレベルの、文学と比べられぬ低さとの関係もあって、なかなかむずかしいことです。
 今夜はこれから届いたものをよみはじめます。
 明日、林町へゆく前に一寸まわりたいけれども、儀式だの青山へ行くことだのでもし疲れそうならばやめて、予定どおり三十一日におめにかかります。大衆小説のようと云っていらしたのもよみ終るでしょう。
 二月になったら二日おきぐらいにきめて又御出勤をはじめます。それから一日おきにして、遂に再び毎日という工合に。勉強や執筆などは、やはりこっちをきちんとやった上での組合わせとしてやりましょう。
 かぜの方はいかがですか、やっぱりずっと順にようございますか、お大事に。私はこの頃やっと夢が殆どない平常に戻りました。腹帯は、眠っている間はしないことにして居ます。色のついている夢は、視神経が眠りきらないときに起るのですってね。成程とすっかり合点がゆきました。私たちのように視覚の活動がはげしいものは、過敏な折もあって、色付の天然色夢を見るわけですね。何も気違いが見るというのではないわけです。誕生日に下さるものお考えがつきましたか? 本年は、本当に万年筆を買って頂きましょうか、私の愛用ヒンクスウェルズの金Gはもう入らないのです。だからこんなに減って頭のなくなったのでもつかっている次第です。万年筆の先は堅くて弾力がなくて手くびがつかれます、そうではありませんでしたか? 万年筆でも買っておいた方がいいのかしらと本気で思案中です。割合暖い夕方ですね。又明後日に。

 一月三十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(自宅茶の間の水彩画の絵はがき)〕

 よごれるかと思うと惜しいけれども。これが茶の間。おなじみの長火鉢。おなじみの茶ダン
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