。今でもスースーですか? 呉々お大切に。お願いいたします。二十七日にね。
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[自注2]懐しい物語――ながい年月の間には、いくつもこういう詩集がやりとりされた。書いたものと書かれたものとの間にだけ発行された詩集。
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一月二十九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
一月二十九日 第十信
二十七日づけお手紙をありがとう。昨日栄さんが、二十五日にあっちへおかきになった手紙見せてくれて、全く通俗化した一作家が「成長」という小説をかいているのには一笑したという意味のところ、思わず大笑いしました。あれも愉快なお手紙でした。
力がついて来たこと、はっきりわかりますか? もう大分予後の弱々しさが神経からもなくなって来て居ります。二十七日には往きは目白の往来で拾って乗りましたが、かえりは大通りまで歩いて、バスと電車でかえりました、初めての試み。埃が余りひどくなければ、寒さそのものはもうこわくありません。永い間、バスなどにのっていて、ドスンとはねると、あ、と脇腹をおさえたい心持でいたから、この頃、すこしドスンとして、神経だけ習慣ではっとするが、おなかの中はちっとも痛くないので不思議な位です。本当に今年はいいだろうと楽しみです。腹の中から不断に毒素を発していたものがないというのはきっと大したちがいだろうと思われます。今のところまだそれほどにもないが。傷のあとなど劬っているから。傷そのものは小さい七八分のすこし赤みがかっている十字で、この頃は肉が凹んでいたのも殆どなおり、仰向にねたり、おふろに入っているときなどすっかりすべすべと平らになりました。傷の上の方に何かまだしこりがあって、それを全くちらしたら完成です。
きのうは電報ですこしおどろきました。記録料など出来上れば当然こちらへ請求するものだからそちらへ請求するわけないのに、どうしたことかと思ってすぐ電話かけてきいて見たらば、旅行中でわかりません。今日かえる由。そちらへ求めて来たのではないでしょう? 出来上れば勿論すぐ支払います。ただ、出来たらすぐ支払えとおっしゃるわけだったの? それなら電報はおうちにならなかったでしょうね、よくわからない。今夜でも又電話して見ましょう。
二十三日は本当にありがとう。二十五日につきました。返事もう今ごろ見ていらっしゃるのでしょうと思い
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