方がよいということになりそうで、そうなると平家で四間ぐらいの家と二階で四間ぐらいの家が、表は別で、内ではかけ橋でつづいているところが、あくわけなのです。
 秋から寿江子が東京に落付くについて林町はどうしてもいやだというし、ここへこのままは住めないし(ピアノがうるさくて)心配していたところでした。一人きりはなして妙な生活になるといけないから。もしそこが五十円ぐらいでかして貰えれば寿江子も自分の家賃は出して、食事など共通にして二人でやってゆけるかもしれず、大いに期待して居ります。共同に台所や何かやって、女中さんなしでやれれば、実にうれしいと思います。この家に、私が全く一人というのでは万一のときこの間のような思いをしなければならず、又寿江一人もよくない。そうかと云ってお互の条件が音については反対なのだから、こんな家は理想的です。或は六十円でも(家賃が)二人でやってゆけば却っていいかもしれない。あの辺はこことちがって周囲が直《ちょく》で物価もやすいし、そちらへ多分歩いてゆける位かもしれず、本当にわるくないでしょう。少しわくわくする位です。私の生活の形、寿江子の生活の形、ほんとにああでもないこうでもないと考えていたのですもの。寿江子は、余り工合がいいからもし喋って駄目になるといやだからと云って、こわがって幸運をとり逃すまいとしています。
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 寿江子は私の癒った祝に今面白いことをやって居ります。いずれおめにかけるものです。
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 余りうれしいこと口へ出すと消えそうな気がするそうです。ひさの試験は受かるかどうかわからないが、受かるようにしてやって、うかれば本年の冬はいないものと考えなければならず、あとのひとのこともなかなかむずかしくて閉口していたところですし。そういう形で寿江子と家が持てれば相当の恒久性があるわけです。私が旅行したりする間も安心だし。出来るとうれしいと思います。家なんて妙なものね、もしこの話が実現すれば、空想として描いていたような好条件の形が出現するわけです。前かけのまま何でもなく一寸出られるような周囲でなくては一人ではやれるものでない、面倒くさくて。ホクホクしてもう手どりにでもしたようによろこぶのも早計ですから、私ももう笑われないうちひかえましょう。もうたったひとこと、本当に出来たらいいとお思いになるでしょう?
 一昨
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