ェある。それが腹が立つ。駄目です。あのひとは全くその点独特ですから。こんなことでも、これほど微妙だから面白いものね。
明日一日日比谷ですから、どうしてもきょうのうちに片づける必要のものがあって。
一昨夜てっちゃんが見えました。奥さん、思いのほか大手術であったそうです、可哀そうに。どうなのでしょうね、子供ももしかしたら、あの康子ちゃん一人かもしれませんね。癌《がん》と同じに、幼時の細胞が皮膜のようになって組織内にのこっていて、それが成長するにつれ育ったり分裂したりして害をおよぼすのだそうです。そういうものの由。メイソウさんの奥さんが眼科を開業したのですってね。そしたら繁昌して、旦那さんすこし押され気味だって。そのことをあなたが可笑しがっていらっしゃるという話ききました。私はどっちも初耳だったから、二重に面白くて笑いました。でも結構ですね、それですっかり生活がしゃんとゆくでしょう、もう何年も会いませんが。重治さんのところでは卯女が大分可愛くなり、もう両足をなげ出して、両手でビンを持ってお乳をのむ由です。その乳に入れる砂糖が世田ヶ谷にはない。それで栄さんのところへ電報が来たので、六軒歩いたら二軒が半斤ずつ売ったそうです。昔中野は「砂糖の話」というのをかきました。が、こういう物語がおこるとは思っていなかったでしょうね。私は当分中野さんへ何かあげるならサトウにしましょう。うちだって、ありはしないが。中野しきりに小説をかきます。身のまわりのこと、子供の泣くこと、ねむらぬこと等々。せっせと書いて彼の癖の独白体を脱しなければいけないが、どうも益※[#二の字点、1−2−22]独白になるのではないかしら。「子を育てるためには先ずその子をくう話」というゴーゴリの題のようなわけです。
おみやさんがいて助かりますが、御飯たいて雨戸あけて、はくだけですから。今市場へ出かけて晩の野菜を買って来てすっかり仕度しておいて仕事にとりかかるというわけ。私は今、それはそれは玉葱《たまねぎ》くさくて、おばけのようよ。くたびれて、パンにバタつけて、生の玉葱うすく切ってのっけてたべましたから。ロシアの農夫は、黒パンのかたまりを片手にもち、片手に玉ねぎをもち、玉葱をかじりつつ黒パンをたべます。
隆ちゃんからエハガキが来ました。いそがしいと見え例の通りの文章です。雑誌は貰って、どっさりあるから、いらないと云
前へ
次へ
全383ページ中308ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング