オ早めに退院して来て、うちのことをいろいろ気づかうのはすこし疲れすぎますから、ようございます。
 泰子見せてあげたいこと。実に啼かない児でね。生れて間もないのに手脚のびのびのばしてよく眠ることと云ったら。そして時々お釜の吹き出すような泣きかたをして、そのときはポンポがすいているのです。可愛い娘です。女の子の可愛ゆさは又一しお。きっとあなたも御覧になったらそうお思いになるでしょう。顔立ちは倉知系統です。水泳と何かテニスのようなスポーツよくやらして明るくて、落付いて苦労はしても所謂不幸にはならない娘にしようね、と咲枝と話します。咲枝ちゃんも、いろいろ見ているので、人間が困難をさけて生活は出来ないこと、しかし困難即不幸ではないように生きられることをいく分は知っていますから。でもあなたが、真に咲くようにと祝福して下すった通り、女の子が、そのように生きられるということの条件は複雑でね。本当に、真に咲き実った女の生涯を送らせてやりとうございますね。赤ちゃんでも、女の児には、女の児の生理があるのです、ちゃんと、もう。或る特徴が現れて、それはこの小さい桃色の体の内に、欠けるところなく女性が蔵されていることを告げるもので、昔の人は完全な女の子のよろこびにお赤飯をたいたのですって。大変にいじらしく思います。無心に眠っているのにね。私は、女の子は人生が受け身だから男の子の方がいいと思っていたけれども、こうしていろいろ見ていると、そういう点もやはり愛憐をひきおこします。可愛さにかわります。この点は大変面白い心持です。男の子に、私はやはり凜々《りり》しい資質、英気を求めていて、太郎にそれが欠けていると腹立たしい。可愛さの逆の面で。女の子に(赤坊だからだけれど)は初めからちがったところがあって。それだけ女の生きる道が嶮しいわけです。
 泰子のお喋りをこんなにして。二人の子供たちをつれて小旅行にでも出られる年になること(二人の子が)たのしみです。覇気のある男はある。英気というものは少いものですね。
 では月曜日に。早く参ります。どんなお天気かしら。大雨風だったらユリは、龍になるかもしれず。女は大雨のときは龍になるのですから、昔から。ではお大切に。

 九月一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 九月一日  第八十四信?
 二三日又相当あつい日がつづきました。大体三〇度以上。御気分
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